【vol.35】固相ペプチド合成に適した樹脂のリンカーおよびC末端の官能基の選び方

バイオタージジャパン ペプチドブログvol.35

June 20, 2018
Elizabeth Denton

 

ペプチドの世界に足を踏み入れたばかりの方々は、多くの選択を迫られることになります。どのようなカップリング試薬を使うか?反応を促進するために、熱を加えるか加えないか?そして最も重要なのは、どの樹脂を使うか?になります。

私は以前、樹脂の選択について、ロードレベルから膨潤度まで、そしてそれらが合成結果にどのような影響を与えるかをお話ししました。しかし、市販の樹脂の基本的な特徴についてはまだ触れていませんでした。それは、ペプチド鎖を結合させる官能基やリンカーです。

今日の記事では、Fmoc固相ペプチド合成に最もよく使われる樹脂のほんの一部ですが、樹脂の種類と他の樹脂タイプより選択するいくつかのシナリオについて説明します。

ペプチド合成に取り組む前に問われる最も重要な質問は、「これらの化合物の目的は何か」ということであり、これは合成に使用する樹脂の選択に直接影響を与えます。例えば、そのペプチドは生物学的研究に使われるのか?もしそうなら、そのペプチドは自然界に存在する化合物をベースにしているのか?などです。

これらの質問に対する答えが、ペプチドが機能するためにC末端をアミドや酸にする必要があるかどうかを決定するのに役立ちます。

ペプチド合成用の樹脂リンカーは、一般的に酸、アミド、その他の3種類のカテゴリーに分類され、ペプチドの機能性を決定することになります。

まず、C末端の酸リンカーについて説明します。ペプチドの酸タイプは固相ペプチド合成の分野では最も長い歴史を持っていますが、その扱いは難しいものです。

最も注目すべき酸リンカーは、Wang 樹脂が良く知られています(図1)。この樹脂は一般的に使用されていますが、ほとんどのペプチド研究者は、最初のアミノ酸があらかじめロードされたWang樹脂を購入することを選択しています。

最初のアミノ酸をロードする反応条件は難しくなっていますが、反応中に非対称無水物中間体が側鎖のラセミ化を引き起こす可能性があるため、リスクも高くなっています。樹脂からペプチドを切り離すには、高濃度のTFAが必要であり、樹脂と側鎖保護基の両方を同時に遊離します。

Wang樹脂のリンカーの構造

図1:Wang樹脂のリンカーの構造。

クロロトリチル樹脂もまた、ペプチドの酸タイプの合成によく使用されます。トリチル基の立体的な大きさは、Wang樹脂への最初のアミノ酸カップリングで起こりうる側鎖のラセミ化を回避することができます(図2)。しかし、重要なことは、ペプチドは非常に穏やかな条件 (1-3% TFA) でクロロトリチルから切断され、完全に保護されたペプチドを溶液中で得ることができます。

2-クロロトリチル樹脂リンカーの構造

図2:2-クロロトリチル樹脂リンカーの構造。

ペプチドの酸タイプの他に、ペプチド研究者はしばしばアミドタイプのペプチドを合成しています。このような樹脂の中で最も一般的なのが、Rink Amide樹脂になります(図3)。

Rink amide樹脂は、ペプチド合成中に形成される他のすべてのアミドと同様に、最初のアミノ酸のロードが単純なアミド結合であるため、一般的に最初のアミノ酸を容易に導入できます。Rink amideは、樹脂からペプチドを完全に切断するために高濃度のTFAを必要とし、樹脂からの切り出しと標準的な側鎖保護基の脱保護も同様に実施できます。

Rink amide樹脂のリンカーの構造

図3:Rink amide樹脂のリンカーの構造。

Rink amide樹脂に加えて、ほかにもSieber樹脂があります(図4)。Sieber樹脂は、Rink amideリンカーと比較して立体的な大きさが限られているため、ペプチドが立体的にかさ高いアミノ酸や特徴的な官能基をC末端に含む場合、魅力的な選択肢となります。

重要なことは、このリンカーは弱酸性条件にも敏感であり、溶液中で完全に保護されたアミドタイプのペプチドを得ることができます。

Sieber樹脂のリンカーの構造

図4:Sieber樹脂のリンカーの構造。

第三のカテゴリーは、大まかに「その他」と定義しています。これは、有機化学的に最も多様なカテゴリーであると同時に、活発な研究によって成長し続けています。

このカテゴリーに分類される樹脂リンカーは、固相ペプチド合成において様々な配列や構造をもったペプチドの合成が進化し続ける複雑さに対処するために開発されました。初期の例では、Kennerによって発見され、Ellmanによってさらに改良されたセーフティキャッチ樹脂が、C末端ペプチドのチオエステル形成を助けるために開発されました(図5)。これは、ネイティブケミカルライゲーション反応を進めるための厳しい条件をクリアするためでした。このライゲーションはペプチドの伸長させるための研究であり、現在も成長を続けており、ヒドラジドやN-acylureasやなどがあげられます。

Kennerのセーフティキャッチ樹脂リンカーの構造

図5:Kennerのセーフティキャッチ樹脂リンカーの構造。

さて、今回の話は現在市販されている樹脂のごく一部であることを心に留めておいていただきたいと思います。しかし、新しいペプチド合成のプロジェクトに着手する際に、決断しなければならないことの一端を知ることができれば幸いです。

ペプチド合成での樹脂について困っていることはありますか?

ペプチドワークフローへの全体的なアプローチについてもっと知りたい方は、下記リンクからダウンロードしてください。

参考資料:

ロード量:【vol.6】どのようにしてペプチド合成のレジンを選ぶのだろうか{パート1}

膨潤度:【vol.7】どのようにしてペプチド合成のレジンを選ぶのだろうか{パート2}

樹脂の一部:Guide for Resin and Linker Selection in Solid-Phase Peptide Synthesis (Jason A. Moss, Current Protocols in Protein Science, 2005)

樹脂へのアミノ酸の導入:How To Load The First Amino Acid Onto Wang Resin (biotage.com)

クロロトリチル樹脂:Darstellung geschützter peptid-fragmente unter einsatz substituierter triphenylmethyl-harze (Tetrahedron Letters, Volume 30, Issue 30, 1989, Pages 3943-3946)

Sieber樹脂:A new acid-labile anchor group for the solid-phase synthesis of C-terminal peptide amides by the Fmoc method. (Tetrahedron Letters, Volume 28, Issue 19, 1987, Pages 2107-2110)

Kennerによる樹脂の開発:The safety catch principle in solid phase peptide synthesis (Journal of the Chemical Society D: Chemical Communications, Issue 12, 1971)

Ellmanによる樹脂の改良:Carbon-Carbon Bond-Forming Methods on Solid Support. Utilization of Kenner’s “Safety-Catch” Linker (J. Am. Chem. Soc. 1994, 116, 24, 11171–11172)

N-acylureas:An efficient Fmoc-SPPS approach for the generation of thioester peptide precursors for use in native chemical ligation (Angew Chem Int Ed. 2008, 47, 36, 6851–6855)

元の記事:How to choose the right resin functionality for solid phase peptide synthesis (biotage.com)

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