【vol.30】 フラッシュクロマトグラフィーで ELSD を使用するのはどのような場合ですか?

有機化学ブログ vol.30

May 11, 2022
Bob Bickler

 

フラッシュクロマトグラフィーは複雑です。溶媒の選択、カラムサイズ、固定相、ローディングテクニック、グラジエントメソッド、流速、検出パラメータ、これらすべてはフラッシュクロマトグラフィーとこの精製技術の成功を左右する変数です。これらの変数のうち、検出パラメータ、すなわち検出器のタイプは、フラッシュクロマトグラフィーの結果に大きな影響を与える可能性があります。

 

合成化合物の大部分(少なくとも創薬研究所で製造される化合物)は、1つ以上の波長で紫外線吸収を示しますが、紫外線吸収をほとんど示さない合成化合物や天然化合物が増えてきています。このような場合、ほとんどの化学者は、蒸発光散乱検出器(ELSD)などの別の検出器を追加して、溶出化合物を検出し分画することになります。

 

しかし、私の経験では、ELSDが必要と考えられている化合物の多くは、PDA-UV 検出器を対象化合物に適した波長域に調整することで、良好な感度が得られることが分かっています。このカテゴリーに入る化合物には、脂質やテルペン類など、UV 吸収感度の低い類似化合物があります。

 

脂質は、mRNA ベースの COVID-19 ワクチンがいくつかの異なる脂質化合物を使用して作られているため、ここ数年話題になっており、その効果的な精製に非UV検出器または ELSD を必要とすると一般的に考えられている化合物群です。実際、ELS検出は望ましい結果をもたらしますが、これらの化合物に適した波長範囲(198-210 nm)で調整した可変波長 PDA UV 検出器も同様に可能です。

 

以下の例では、逆相フラッシュクロマトグラフィーを用いて、完全飽和脂肪酸エステルであるラウリン酸メチル(C12:0)、一価不飽和脂肪酸エステルであるオレイン酸メチル(C18:1)、mRNA ワクチンの脂質ナノ粒子混合物に用いられる脂質であるコレステロールを精製しています。検出のために狭い波長範囲を使用し、実際にこれらの化合物のUV感度を高める 波長フォーカシング と呼ばれる検出技術を、ELSD と併用して比較した結果を図1に示します。

UV (198-220 nm) と ELSD の両方を用いた逆相フラッシュクロマトグラフィーによる3つの脂質ミックスの精製

図1. UV (198-220 nm) と ELSD の両方を用いた逆相フラッシュクロマトグラフィーによる3つの脂質ミックスの精製。

ELSD では各脂質が検出されるが(緑色のトレース)、ラウリン酸とオレイン酸のエステル基は実際に紫外線を吸収して検出されます(黒、赤、青のトレース)。また、オレイン酸メチルやコレステロールのように二重結合を持つ化合物も紫外線を吸収し、非常に低い波長ではありますが検出可能です(図2)。

精製した各脂質のUVスペクトル。UV吸光度は<200 nmから~220 nmの範囲。

図 2. 精製した各脂質の UV スペクトル。UV 吸光度は <200 nm から ~220 nm の範囲にあります。

これらの脂質の UV 吸光度は <200 nm~220 nm の範囲にあります。この狭い吸光度範囲はクロマトグラフィーの溶媒選択に影響を与え、この波長範囲にほとんど吸光度を持たない溶媒(アセトニトリル、メタノール、アセトン、ヘキサン、水)だけを使用する必要があります。上記のクロマトグラフィーは、水とメタノールを用いて行われました。

 

では、どのような場合に ELSD が必要なのでしょうか?糖質、紫外線吸収性官能基を持たない飽和脂質(例:エステル)、飽和テルペン、その他紫外線吸収性発色団を全く持たない分子を精製する場合です。これらの化学領域で作業している場合、フラッシュ精製システムと共に ELSD を使用することで、検出/分画の利点がさらに高まることは間違いありません。

 

ELSD の詳細については、以下のリンクをクリックしてください。

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