自動サンプル前処理装置Extrahera™が
東京オリンピック、パラリンピックで大活躍

アンチドーピングテストにおけるより優れた検査法を求めて

公益財団法人 競走馬理化学研究所
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公益財団法人 競走馬理化学研究所では、競馬及び馬術競技主催者からの依頼による薬物(ドーピング)検査や競走馬に与えられる飼料の検査、DNA 多型を用いた親子判定および個体識別検査などの検査業務を行っています。薬物分析部では多種多様な検査に対応するため、検体を迅速に自動前処理できるバイオタージの自動サンプル前処理装置 Extrahera を活用しています。導入の背景や決め手となったポイントについて、薬物分析部国際分析課 専門役の小平美里さん、主任の清水嘉文さんにお話をうかがいました。

― まず、貴所の業務内容やご研究の内容について教えてください。

清水さん :
弊所は競馬の公正確保を目指して業務に取り組んでおります。薬物などの化合物を対象とする薬物分析部と、遺伝子などを対象とする遺伝子分析部に分かれています。
国内で行われている中央競馬と地方競馬の全レースを対象に、競走馬のドーピングに使用されるおそれのある薬物の検査をしています。年間で、各種検査を合わせて 5 万件弱、毎週 1000 件程度の検査を実施しています。
研究業務としては、検査法の開発改良にも取り組んでいます。検査対象薬物の拡大に関する研究や薬物動態に関する研究などを行っています。

― 昨年開催された東京オリンピック、パラリンピックでも、検査業務に取り組まれたとお聞きしています。その時の業務について詳しく教えていただけますか?

清水さん :
昨年の夏の東京オリンピック・パラリンピックの馬術競技に出場する競技馬の検査を実施しました。事前検査として国内だけでなく、海外から競技馬が日本に入る前にもオリンピックと同じ検査をしないといけないので、6月末から検査が始まり8月末のパラリンピック検体の検査終了までの期間中、かなり緊張感が続く日々でした。昨年導入した Extrahera 3 台はその中で大活躍でした。

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左:小平さん 右:清水さん

小平さん :
通常の競馬検体の業務もあったので、学生時代のような働き方でした(笑)。特に事前検査では検体の到着頻度も不規則、かつ検体数も開けてみないと分からない状態だったため、大変だったのを記憶しています。オリパラの競技後の検体は分析結果を翌朝には出さないといけないので、検体が到着次第やるぞ!っという感じで集中して、前処理から質量分析装置にかけるところまでは、その日のうちに終わらせていました。

― 分かりやすいご説明をありがとうございました。通常の検査業務に加えてハードなオリンピック、パラリンピック業務への対応が必要だったのですね。

◆キャリーオーバーを回避しつつ、抽出時間の短縮が課題だった

― 貴所では多くの検体をスピーディーに処理していくために、以前より前処理の自動化を進めておられました。今回 Extrahera を検討しようと思ったきっかけやポイントについてお聞かせください。

清水さん :
Extrahera のことはもともと論文や実際のユーザーを知っていて、ずっと気になっていました。

― 確かに海外のドーピングラボにおいては、Extrahera を多くご利用いただいております。

清水さん :
多くのサンプルを扱うので、自動前処理装置は全部で20台以上使用しています。前処理を自動化することは、検査員個人の熟練度が検査結果に影響しないこと、ばらつきを抑えられる、検査員の担当替えがあっても検査の品質が保たれるというメリットがあります。サンプルを装置にセットすれば、検査員は測定や測定装置の準備など他の業務にあたることができるので、時間の有効活用にもなります。

小平さん :
最近はドーピング検査も対象薬物が拡大されてきて、課題も浮き彫りになったところで、Extrahera を検討することにしました。

― どんな課題があったのでしょうか?

小平さん :
新たに検査対象となる薬物の中に、キャリーオーバーしやすい性質を持つものがありました。検体の配置に気を付ける、ダミーサンプルを配置するなどで対応するのですが、その分、時間がかかるので、その点を解消したいと感じていました。

清水さん :
例えばニードル式の前処理装置だと、それぞれの化合物の性質に応じて、洗浄を多くするしかないのですが、洗浄すればするほど抽出時間が増えるというジレンマを抱えていました。分析装置の感度向上もあり、キャリーオーバーの低減は喫緊の課題でした。

◆キャリーオーバーがゼロに! 抽出まで遡る手戻りがなくなった

― 実際に Extrahera のデモを実施し、導入を決めていただきました。決め手となったポイントをお願いします。

清水さん :
Extrahera 導入の決め手となったのは、キャリーオーバーがゼロになったことが一番大きいですね。分析の分野でキャリーオーバーの問題は常につきまといますので。

 

― チップ分注式のExtraheraは、理論上キャリーオーバーが発生しない構造となっております。

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小平さん :
キャリーオーバーが万一発生してしまうと、原因究明に時間がすごくかかることがあります。抽出工程まで遡って再検査をやり直す必要がありますので、Extrahera を導入して本当に良かったと実感しています。

清水さん :
スループットについては、私が実施したメソッドで4割の処理時間が削減できています。それでも結果は良好でしたので、抽出時間の短縮というのも非常にメリットを感じました。

― デザインや使いやすさについてはいかがでしょうか。

清水さん :
コンパクトで、排気システムが組まれていることが良かったですね。検査員さんの健康を守るためにも極力溶媒が暴露しないものがいいと考えています。その点、Extrahera は排気システムがありますので、検査員さんへの暴露が低減できるのでいいですね。検査員の方からは、ソフトウェアの使いやすさとタッチパネルで操作が簡便になったという声を耳にします。終了時間が表示されるのでスケジュールが組みやすいとも聞いています。サンプルを装置にしかけたら他のことができるので、時間効率が本当に良くなりました。

◆バイオタージの開発力とサポート体制に安心感

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― 多くのメリットを感じていただけたのですね。清水様には Extrahera の新機種の開発段階のテストにもご協力いただきました。その時に感じたことを教えてください。

清水さん :
最近発売された大容量の Extrahera HV-5000 の試作機の動作確認で実際にユーザーからの評価を受けて改良していく姿勢に好印象を抱いています。こういう風にできたらいいなと提出した要望を、実際の装置に実装されたのを見て、開発力の高さを感じました。
また、既存の装置からのメソッド移行時のサポートも頼りになりました。トラブルがあった時のサポート体制や細かいカスタマイズもありがたいです。製品だけでなくサポート体制の信頼も導入の決め手になりましたね。

― サポート含めトータルで高くご評価いただきありがとうございます。Extrahera で改善してほしい点やバイオタージに対するご要望などありましたらお願いします。

清水さん :
装置電源スイッチの場所を手前にしていただけるといいですね。複数台を並べて使っているので、スイッチの場所が溶媒置き場の奥になり、手が届きにくいです。
あとは、下部ユニットの高さですね。回収容器の高さ制限が 75mm というのがあり、それが回収容器のバリエーションの低さにつながっています。基本的にはユーザーは高さ 100mm の容器を使うことが多いので、メソッドの移行の時に難色を示されたり今まで使っていたものが使えなくなることがありました。あと数センチ高さを伸ばしてもらえるといいですね。

― そういうお声は他にもいただいております。我々からも開発部門に伝えさせていただきます。

清水さん :
ソフトウェアについては、エラーなどで前処理の工程を途中で止めた際に、これまで実行した工程をスキップし、続きから実行できると良いですね。現状は工程をスキップしたメソッドを作り直して実行しています。また、すべての工程が終了したら自動で扉が開くのですが、開かなくてもいいかなと。サンプルを Extrahera に仕掛けた後は、昼休みを取ったり、装置から離れて他の業務をしたりするので、サンプルのインテグリティや健全性を守るためにも、回収時に手動で開けて、開けたこともきちんと記録に残せたらいいなと思っています。

― たしかにサンプルのインテグリティ確保の面では手動でもいいかもしれませんね。最後に、今後のプランをお聞かせください。

清水さん :
ドーピングとそれを検知するアンチドーピングテスト、検査法の開発は終わりがありません。薬物使用の抑止力のためにも、先手を打って優れている検査方法を探求していきたいと思います。前処理の環境も変わっていくので、より良い前処理システムの調査は続けていきたいと思っています。

― 私共も改良に終わりはないので、引き続きよろしくお願いします。貴重なご意見、ご要望をありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします。

インタビュー実施:2022年5月
PDFファイルダウンロード(1.0MB)

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導入製品

自動サンプル前処理装置
Biotage® Extrahera™

URL: https://www.biotage.co.jp/products_top/sample-preparation-products/extrahera/
チップ式分注機能と加圧式送液機能により、ろ過、除タンパク処理、固相抽出(SPE)などの前処理を自動化します。
“使いやすさ”を重視し、ユーザーが装置を自由に使いこなせるようソフトウェアをデザインしています。

利用機関

公益財団法人 競走馬理化学研究所

URL: https://www.lrc.or.jp/

競走馬理化学研究所は、競馬における薬物の使用規制、馬の個体識別並びに家畜及び農畜産物等に係る理化学的検査及び研究を行い、もって競馬に対する国民の信頼の増進に資するとともに、学術の振興に寄与すべく各種事業を推進しています。
2004年7月には競走馬の薬物検査部門が試験所の能力に関する国際規格である ISO/IEC 17025 の認定を取得、2021年2月には国際馬術連盟(FEI)より FEI Approved Laboratories の認定を取得し、検査の信頼性のさらなる向上に努めています。
設立:1965年8月