Initiator

抜群の使い勝手の良さが、
効率的な研究に役立っています

学習院大学 理学部 化学科 中村研究室
中村浩之 教授

 

学習院大学中村研究室では、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)のためのホウ素ナノカプセル薬剤配送システム(BDS)の開発など、有機化学と分子生物学の境界領域で「新薬創製」に取り組んでいます。2007年に導入したマイクロウェーブ合成装置『Initiator』は、研究活動に不可欠なツールであると語る中村浩之先生に、有機合成や創薬分野の最新動向や『Initiator』の使用感などをうかがいました。

◆有機合成でも「元素戦略」が重要

―ニュースなどでレアメタル(希少金属)という言葉を見かけることが珍しくなくなりました。有機合成の分野でも、今後は元素戦略が重要になるとうかがいました。

材料科学やナノテクノロジーの分野では希少資源の効率的な利用や代替物質の開発などを戦略的に行う元素戦略が進められています。
有機合成の分野でも同様で、触媒として利用している白金やパラジウムなどの希少金属を、鉄などの安価な金属で代替する研究などが進められています。
また、触媒に金属を使用しない有機触媒の開発も行われています。これらは有機合成分野の大きなトレンドと言えるでしょう。

学習院大学 理学部 化学科 中村研究室 中村浩之 教授

―具体的にはどのような研究が行われているのでしょうか。

たとえば文部科学省の特定領域研究「炭素資源の高度分子変換(平成17年度~平成20年度)」などがあります。
この研究では、京都大学の丸岡啓二先生が非金属触媒による官能基炭素分子の高度分子変換の研究を行ったほか、多彩な研究が行われました。
この特定領域研究には私も参加していて、触媒に銅を利用したアレン化合物合成について発表しています。
合成にマイクロウェーブを利用することで反応時間を大幅に短縮できました。

◆ナノ粒子によるDDSを開発する

学習院大学 理学部 化学科 中村研究室 中村浩之 教授

―中村先生はホウ素中性子捕捉療法(BNCT)のためのホウ素ナノカプセル薬剤配送システム(BDS)の開発でも大きな成果を上げていらっしゃいますね。

がん細胞は活発に増殖するために血管新生が増加します。新生血管の未熟な血管壁は血管透過性が高いので、100ナノメートルくらいの粒子が染み出して、がん細胞に蓄積する性質(EPR効果:Enhanced Permeation and Retention effect)があります。
これを利用すると、がん細胞に選択的に薬剤を運ぶドラッグデリバリーシステムになります。

―2009年には加速器を利用したBNCTの動物実験が京都大学で始まりましたね。

加速器の中性子を利用できるようになると、BNCTは放射線療法のひとつとして広く普及する可能性があります。そのためにもホウ素のデリバリーシステムの開発は重要なのです。
筑波大学、大阪大学、日本原子力研究開発機構と共同で行った研究では、リポソームを用いたデリバリーシステムを開発しました。ホウ素をリポソームの中に封入したり、リポソーム膜にホウ素を導入するなどして、能動的に標的細胞にホウ素を取り込ませるものです。

◆MW で実験条件の選択肢が増えた

―中村先生はいつごろからマイクロウェーブ合成を利用されはじめたのでしょうか。

マイクロウェーブ合成には以前から興味を持っていましたが、気に入った合成装置がなかなか見つかりませんでした。2006年にスクリプス研究所を訪ねたときに、研究者から薦められたのが『Initiator』でした。実際に自分で使ってみると、密閉性の高さや使い勝手の良さなど、非常に満足できるものでした。

―研究を行ううえで『Initiator』の導入によってどのような変化があったのでしょうか。

マイクロウェーブを利用できないときは、何かの反応を調べる場合、反応率が悪ければ、反応温度や圧力、時間、さらに触媒や溶媒の検討を行う必要がありました。
しかし、『Initiator』の導入後はオイルバスで反応率が悪い場合には、次にマイクロウェーブを試してみることができるようになりました。マイクロウェーブは条件検討の選択肢のひとつなのです。
マイクロウェーブを利用するメリットは、高い加熱効率によって短時間で加熱できるので、副反応や分解反応が抑えられることです。さらに金属触媒の表面活性にもマイクロウェーブが影響を与えている可能性を指摘する研究者もいるようです。

―『Initiator』の使い勝手について、もう少し詳しくお話下さい。

操作の分かりやすさという点では、マニュアルを読み込まなくても、使いながら覚えることができるほど簡単ですね。
ほかの研究室の学生が『Initiator』を使うこともあります。導入以来、故障が全くないタフな作りにも満足しています。
一度、バイアルが割れたことがありましたが、汚れてしまったキャビティー内部の部品はすぐに自分で交換できました。メンテナンスが簡単なことは、効率的に実験を行ううえでは重要なことです。

Initiator

◆大きな可能性を持つ MW 合成

―最後に有機合成分野におけるマイクロウェーブ合成の今後の展望について、お聞かせ下さい。

有機合成にマイクロウェーブを利用しただけという研究はひと山超えた、一段落した、と認識しています。今後は、従来の加熱では反応率の低かった反応を加速したり、短時間合成などの研究が増えていくでしょう。
また、放射線治療に用いる標識抗体の合成などにも短時間で反応が完了するマイクロウェーブ合成は有効だと考えています。
最初にお話しした元素戦略でも、マイクロウェーブ合成は大きな可能性を秘めています。マイクロウェーブによって、安価な金属を触媒として利用したり、有機触媒を使った反応の研究が進むことが期待されています。