一般財団法人 日本冷凍食品検査協会(現 一般財団法人 日本食品検査(JFIC))

下痢性貝毒試験の機器分析法への移行を実現

~サンプルの精製に親水性ポリマーベース固相抽出カラム
「EVOLUTE ABN」を活用~

一般財団法人 日本冷凍食品検査協会
一般財団法人 日本冷凍食品検査協会
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一般財団法人 日本冷凍食品検査協会は、厚生労働省の通達により2015年4月から下痢性貝毒試験の分析法移行(マウス毒性試験から機器分析へ)にいち早く対応し、独自のメソッド開発を行うことで、下痢性貝毒(オカダ酸群)を機器分析で試験する体制を整えました。その際、前処理工程のサンプル精製にバイオタージの親水性ポリマーベース固相抽出カラム「EVOLUTE ABN」が採用されています。今回は、試験部副部長の橘田規さん、理化学試験課担当課長の佐々木弘一さん、同じく理化学試験課の花田貴資さんに、お話をうかがいました。

― まず、日本冷凍食品検査協会の概要を教えてください。

一般財団法人 日本冷凍食品検査協会橘田さん :
日本冷凍食品検査協会は1949年に輸出冷凍水産物検査協会として設立されました。当時の水産物の冷凍技術はまだ未熟で、水産業者もその品質管理に苦労しておりました。そこで冷凍水産物の品質向上を目的として、水産業者の方々が共同で出資して設立したのが当協会の始まりです。1959年に現在の日本冷凍食品検査協会へと名称が変わりました。

当会の業務は大きく二つに分かれており、食品メーカーなどお客様の品質保証活動をサポートする”検査”と、ラボでサンプルを分析する”試験”があります。

“検査”が設立当初からの業務で、冷凍マグロなどの水産物・水産加工品の輸出のための品質検査、冷凍食品の衛生に関する微生物学的なチェック、また工場や店舗の衛生管理がきちんと行われているかどうかの調査指導、セミナー・研修会の実施なども行っています。

“試験”には、一般依頼試験と輸入食品試験の2種類があります。一般依頼試験は、食品メーカーや各種団体等の一般のお客様から依頼されるもので、栄養成分試験、安全性試験、規格試験、品質試験、放射能試験などが行なわれます。

一般財団法人 日本冷凍食品検査協会
日本冷凍食品検査協会
試験部副部長
橘田規さん

輸入食品試験は、さらに命令検査と自主検査の二つに分かれます。前者は厚生労働大臣の命令(食品衛生法違反の蓋然性が高いと見込まれた場合)によって検査されるもので、後者は検疫所の指導に基づいて輸入者が自主的に検査するものです。

命令検査のできる登録検査機関(厚生労働省に登録)は全国に100ほどあるのですが、主要な港の保税地区を網羅して検査所を展開しているのは、われわれのほか数機関ほどしかありません。

日本冷凍食品検査協会は現在、札幌、仙台、東京、名古屋、神戸、福岡に検査所があり、“検査”と“試験”の両方を手がけていますが、ここ横浜試験センターは全国で唯一、“試験”専門の施設となっています。

◆下痢性貝毒試験が機器分析法へ、EUに続き日本でも

一般財団法人 日本冷凍食品検査協会
日本冷凍食品検査協会
理化学試験課担当課長
佐々木弘一さん

― 横浜試験センターの業務体制について教えてください。

橘田さん :
横浜試験センターは2006年に開設しました。組織としては、理化学部門と衛生検査部門、技術開発部門で構成されています。

理化学部門の中に、残留農薬や動物用医薬品などの分析を行う理化学試験1課と、食品添加物、および食品に触れる器具容器包装を対象にした規格試験、そして今回のトピックスである貝毒試験などを行う理化学試験2課があります。また、今回の貝毒試験のメソッド開発は技術開発部門で行いました。

― 貝毒試験に取り組まれたきっかけについて教えてください。

橘田さん :
まず、貝毒の種類ですが、症状で大きく分けて麻 痺性貝毒と下痢性貝毒があります。いままでの公定法による検査では実際に二枚貝から抽出した毒素をマウスに注射してその毒性を評価(マウス毒性試験と呼びます。)していました。この試験ではばらつきはあるのですが、管理方法としては非常に有効で、この試験を経た製品が市場に出て、食中毒事件を起こした事例は過去に一度もありません。

一般財団法人 日本冷凍食品検査協会
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理化学試験課
花田貴資さん

しかし、動物愛護の観点から、下痢性貝毒について機器分析法に移行しようという動きが、3年ほど前から欧州で出てきました。まずEU域内で流通する二枚貝の下痢性貝毒は機器分析で行うという規制ができ、EU域外から輸入される二枚貝についても昨年(2015年)1月から機器分析による検査が義務づけられました。

日本国内でも、同じく昨年3月に厚生労働省が通知を発出し、同4月からホタテ貝を含むすべての二枚貝の下痢性貝毒試験が機器分析の適用対象になりました。ただ、急でしたので早く対応するためにかなり苦労することになりましたね。

もともと、輸入検査で貝毒に対応できる検査機関は限られています。ほとんどの場合、麻痺性貝毒と下痢性貝毒の検査をセットで行いますが、前者はマウス毒性試験で、後者は機器分析で行うこととなるわけで、これを両方対応できる機関は少ないのです。私たちが検査できないと二枚貝の輸入が止まってしまうので責任重大です。

◆前処理に固相抽出を採用、キャパシティが大きく充填量は少ない

一般財団法人 日本冷凍食品検査協会― 今回、固相抽出を採用された理由、あるいは数あるカラムの中で弊社のEVOLUTE ABNにお決めいただいたポイントはなんでしょう。

橘田さん :
昨年3月の厚労省からの通知では、分析操作例として前処理精製の段階でODSカラムを使う方法が示されました。それに対し、私たちの方法は、ODSカラムをバイオタージの固相抽出カラムEVOLUTE ABNに切り替えたことがポイントです。実際にはさらにもう一工夫を加えています。

ポリマーベースの固相抽出は、ODSに比べてキャパシティが大きいため、充填剤量も少なくできます。他社製品も含めて検討した結果、国が示した操作例のODSカラム200ミリグラムに対して、EVOLUTE ABNでは25ミリグラムの充填剤量で求められる精製度を達成できました。あとは価格と性能のバランスで、最終的にバイオタージを選択させていただきました。

― お話をうかがっていると、通知から規制が始まるまで1カ月ほどしかありませんでしたが、今回のメソッド開発はかなりの急仕事だったのでしょうか。

花田さん :
EUへの輸出検査の方が先に機器分析に移行しましたので、輸入検査用のメソッドも先行して開発してはいましたが、やはり余裕はありませんでしたね。

橘田さん :
機器の測定条件の開発は先に進めて、固相抽出の検討はそのあとから行いました。貝の種類もいろいろあるのですべてのマトリクスでバリデーションするのは大変でした。実際には、グルーピングして順次行いましたが、昨年4月1日にはすべての貝類で試験ができる準備を整えることができました。

一般財団法人 日本冷凍食品検査協会

◆液通り良くきれいに精製、使い易くトラブルもなし

― EVOLUTE ABNの利点についてはどうお感じですか。

一般財団法人 日本冷凍食品検査協会花田さん :
使ってみてすぐわかるのは詰まることがないというか、そのままきれいに精製ができるということですね。経験上、このサンプルが来るといやだなと思うようなことはいつもあるのですが、EVOLUTE ABNの場合はマニホールドで吸引することなく全部自然落下できれいに落とせています。こういうことは、あまり経験したことがないですね(笑)。

橘田さん :
ルーチンワークですのでいちいち吸引しなければならないというのでは非効率です。EVOLUTE ABNは液通りが良いので現場でも評価は高いです。

佐々木さん :
作業していて困ったことがないですね。貝を均質化してメタノール抽出しただけの試料は濃い褐色をしているのですが、滴下して出てくるものは本当にきれいになっていますし、使いやすくて助かります。

― お役に立てておりとても嬉しいですね。逆に問題点などはございませんか。

花田さん :
それが、あらためて現場で聞いてみたのですが、このEVOLUTE ABNに関しては本当に問題がないみたいです。

佐々木さん :
納品も早いので助かりますね。

― 最後に今後の予定などお聞かせ願えますか。麻痺性貝毒についても、機器分析に移行する動きはあるのでしょうか。

橘田さん :
実は、分析に利用する標準品が手に入りにくいという点に問題があります。とくに、サキシトキシンという化合物が化学兵器の禁止条約に含められてしまって入手できません。代替標準品で定量できるかどうかの検討が国の方で行われていて、その知見が積み重なってくれば機器分析に移行する可能性がみえてくるかもしれません。そのほか、貝毒分析用の標準品は化学合成できないのでどうしてもコストが高くなります。そういう問題もあると思いますね。

― 多岐に渡り教えていただき参考になりました。今日は長時間ありがとうございました。

インタビュー実施:2016年5月
PDFファイルダウンロード(2MB)

 

導入製品

親水性ポリマーベース固相抽出カラム&プレート
EVOLUTE EXPRESS ABN

URL: https://www.biotage.co.jp/products_top/sample-preparation-products/evolute_express/

確実で信頼できる固相抽出を実現するために開発された親水性ポリマー固相です。Load-wash-elute の3ステップで使用でき、固相抽出におけるコンディショニングと平衡化のステップが不要です。ABN は汎用性の高い親水性ポリマー充填剤で、幅広いアプリケーションに適応できます。

導入機関

一般財団法人 日本冷凍食品検査協会

URL: https://www.jffic.or.jp/

日本冷凍食品検査協会は、食の安心・安全を守る総合食品検査機関です。「正確な試験」と「信頼される検査」を遂行することにより、食品産業の健全な発展に資するとともに、食の安全および食品衛生の向上等の公共の福祉に寄与することを財団理念としています。試験・検査・品質保証を3本柱として、顧客の多様なニーズに対応しています。
設 立:1949 年11月
職員数:約400 名
事業所・検査所数:全国7カ所