『分離から化合物の同定まですべてを自動化』
~創薬研究にマススペクトル検出フラッシュ自動精製システム「Isolera Dalton」を活用~
岡山大学 大学院医歯薬学総合研究科 宮地研究室
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科の宮地弘幸教授の研究室では、バイオタージのマススペクトル検出フラッシュ自動精製システム「Isolera Dalton」を導入し、中圧用キラルカラムと組み合わせて光学異性体の分取に活用していただいています。「ずっと待望していた世界初のシステム。ついに出たなという感じでしたね」と述べる宮地教授に、導入の経緯や使ってみた感想などについてお話をうかがいました。
── まず、先生のご研究について簡単に教えてください。
宮地教授
「もともと製薬会社で20年間創薬の研究をしていました。幸い新薬(過活動膀胱治療薬)を生み出すことができ、その成功体験をもとに大学に転出したわけです。いまは、糖尿病やがんなど、目的とした疾病の分子標的の機能を特異的に制御し得る化合物構造の論理的デザインと、その合成をするのが主な研究です。医薬化学・創薬化学に関わる仕事を最初はプロとして、いまは教員として行っているということです。
企業の研究は効率重視の分業体制ですが、大学の研究は逆に幅広く取り組むことができますので、単に合成するだけでなく、疾患標的分子に対する制御活性を自分たちで評価し、構造活性相関などの手法を使って合成化合物構造を最適化したり、ターゲットのタンパク質に対して作動薬、または拮抗薬として働くのかなどを評価したりするところまで手掛けています。
ただ、大学では教育の側面も求められていますから、基本的にはデザインした化学構造のどの部分構造をどう変換すると、活性にどう影響するのかという原理的なところの基礎的研究がメインとなりますね。」
◆分取のスケールで精製とMSが連動できる装置を待望していた
──昨年5月に世界の第1号ユーザーとして「Isolera Dalton」をご導入いただいたわけですが、その経緯を振り返っていただけますか。
宮地教授
「当然、“もの作り”研究ですから、合成した化合物の顔(構造)および美しさ(純度)が重要です。まず合成して、HPLC等で単離し、さらに狙い通りの構造ができているかを調べるために質量分析計(MS)や核磁気共鳴装置(NMR)で分析・同定するという流れになります。目的物質を得るために10段階以上の反応を積み重ねることは日常茶飯事でありますので、これは手間と時間のかかる作業になります。そうなると、1つのアイデアとして、分離しながら同時にMSの測定ができれば便利だということになります。
世間ではすでに液体クロマトグラフ質量分析計のLC/MSとかLC-MS/MSと呼ばれる高価な装置があるのですが、これらは言わば分析用で、それこそ1ミリグラムの数千分の1、数万分の1とかの微量物質を測るためのものです。われわれが行うような数百ミリグラムから1グラムというスケールの実験には適さないのです。“分取スケールに対応出来るLC/MSで、しかも安価な装置がほしい!”とずっと思っていました。」
「そんなとき、Isolera Dalton が発売されるという話を聞いたのですが、ついに出たなという感じでしたね(笑い)。数百ミリグラムという分取スケールで分離している最中に、少しのサンプルを取り出して質量分析にかける。それをすべて一連の流れの中で全自動で行う工夫はまさに発明だといえます。しかも順相でも使える。われわれの研究室が世界第1号のユーザーになるということでリスクはあると思いましたが、とにかく待望していた装置でした。」
◆キラルカラムとの組み合わせが最大の利点
──実際に「Isolera Dalton」をお使いいただいての感想はいかがでしょうか。株式会社ダイセルの中圧キラルカラム『CHIRAL FLASH』を使用し、光学活性体の分離に成功したとお聞きしましたが・・・。
宮地教授
「われわれは主に光学活性体(キラル化合物)を扱います。通常の有機合成反応では、不斉点を有する化合物の場合、R体とS体の等量混合物であるラセミ体が得られますが、いまはラセミ体ではほとんど医薬になりません。
それで、これを分離し単一の光学活性体を得るために、HPLCの光学分割カラムを使用します。以前は、R体とS体を分離したあと、それぞれを測定し同定する必要があったのですが、Isolera Daltonでは設定した分子量のピークを連続的に検出できる選択イオンモニタリング(SIM)で分取しながら、モニター上で質量分析とUV吸収の波形を同時に確認することができますので、一度にすべてが自動で行えます。ラセミ体の分離をリアルタイムに確認しつつ、アッセイに必要な数十ミリグラムのキラル化合物を一度に得ることができました。Isolera Dalton は中圧用キラルカラムと組み合わせるのが、使い方として最大のメリットだと思いますね。
それに、MS装置はどこの大学にもありますが、とても高価で大学の共有基盤設備という位置づけが多いですから、気軽に使うわけにはいきません。その意味で、Isolera Daltonは低価格ですし卓上ですぐに使えますから、純粋に確認用のMS装置としても重宝しています。最終的な目的化合物はNMRで構造を厳密に確定しますが、日々の合成実験で合成中間体が得られているかどうかを質量分析で手早く、リアルタイムで判断できれば便利かつ効率的です。また、NMRデータの解析は専門的な知識が必要ですが、質量が正しいという担保のもとにデータを解析するならば、より理解が速いですし、研究全体のテンポアップにつながります。」
◆静音化など改善点も
──昨年6月に設置していただいてから1年ほどになりますが、ご要望などはございますか。
宮地教授
「改善の要望としては、スプリットの作動音が大きいので、より静音にしてほしいと思います。また、モニターの波形の解像度が荒いのも少し気になりますね。あとは、付随する窒素ガス発生装置を含めて、もっと安価になればうれしいです。」
──貴重なご意見をいただきありがとうございました。引き続き改善を図ってまいりますので、今後ともよろしくお願いいたします。本日は、長時間ありがとうございました。
記事掲載日:2014年7月25日
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導入製品
『マススペクトル検出フラッシュ自動精製装置
Isolera Dalton』
URL: https://www.biotage.co.jp/products_top/flash-purification/isolera_dalton/
Isolera Dalton は、マススペクトル検出が可能なフラッシュ自動精製装置です。ダイレクトインジェクションによる精製前の MS 確認も可能です。順相、逆相のどちらでも MS トリガーによる分取を行なうことができます。
導入機関
国立大学法人 岡山大学
URL: http://www.okayama-u.ac.jp/
明治3年に岡山藩医学館として創設され、昭和24年に岡山大学となりました。11学部、大学院に8つの研究科を持つ総合大学で、教員数は約1400人、学生数は大学院生が約3000人、学部生は約1万人を抱えています。宮地弘幸教授の研究室は、大学院・医歯薬学総合研究科の所属で、有機医薬品開発学分野・創生医薬化学分野をご専門とされています。