数千検体を支える品質検査へ
前処理自動化がもたらす再現性と効率化
株式会社ツムラ
医療用漢方製剤のリーディングカンパニーであるツムラでは、119種類の生薬を原料に、多岐にわたる品質検査を年間数千検体規模で実施しています。天然由来原料特有の複雑な試料マトリックスにより、前処理工程の精度や作業者間のばらつきが課題となっていました。こうした背景から、CMC開発研究所では自動サンプル前処理装置Biotage® Extrahera™ を導入。前処理工程の自動化により、再現性向上と効率化に挑戦しています。CMC開発研究所 所長 豊嶋 貴弘 さん、CMC保証部 部長 辻岡 恭子 さん、不純物試験開発グループ グループ長 中村 新伍 さん、および 野村 洸司 さんに、その導入背景と運用効果についてお話をうかがいました。
―まず、会社の業務内容および研究内容について教えていただけますか。
豊嶋さん:当社は医療用漢方製剤を主力とする企業です。原料となる生薬の約9割を、中国を中心にラオスなど海外から調達しており、日本国内での製造に加え中国にも製造拠点を有し、生産を行っています。
当社の医療用漢方製剤は129処方あり、その原料として119種類の生薬を使用します。生薬を処方ごとに混合・抽出してエキス化し、顆粒剤として製品化しています。生薬は天然由来の原料であるため残留農薬、カビ毒、重金属などの汚染リスクがあり、生薬の栽培・採取段階から、GACP (Good Agricultural and Collection Practices:薬用植物の適正な栽培・採集基準)に基づいた管理を徹底しています。
CMC 開発研究所のうちCMC保証部では、原料生薬の段階からエキス顆粒等の製品に至るまで、汚染物質についての品質検査を行っています。検査対象となる原料や製品の種類が多く、さらに試験マトリックスは非常に複雑であり、検査する検体数も膨大です。
―試験法はどのようなものがありますか。
中村さん:試験は主に、残留農薬、カビ毒、重金属・ヒ素、微生物の4つに分類されます。いずれも製品の安全性を担保するうえで不可欠な試験項目です。
豊嶋さん:特に残留農薬およびカビ毒試験の比重が大きくなっていますね。膨大な試験数に対応する中で、人員配置をどう最適化し、全体のバランスを取るかが重要な課題となっています。その中で、前処理や精製工程などを中心に自動化を進めていくことが重要だと考えています。
◆高い信頼性が求められるカビ毒試験における前処理の課題
―Extrahera導入前に用いていた前処理の手法とその課題について教えてください。
野村さん:導入前の前処理はすべてマニュアル操作で行っていました。マニュアル操作の一番の利点は、特別な設備を導入しなくても、すぐに作業を始められる点ですね。試験法の開発初期段階では、柔軟に条件検討ができるので、その点では問題はありませんでした。
一方で、カビ毒分析のようにごく微量な化学物質を正確に測定しようとすると、どうしても前処理操作が煩雑になります。こうした操作は作業者の熟練度に左右されやすく、結果にばらつきが出やすいという課題がありました。
また、試験法のバリデーションデータを取得する場合や、将来的に品質検査として運用することを考えると、多数の検体を複数の検査員で処理する必要があります。その際、作業の平準化が難しい点が課題だと感じていました。
―御社ではカビ毒の精製工程に抗体カラムを使用されていますね。
野村さん:カビ毒分析の特徴としては、目標とする濃度が非常に低く、ppb レベルでの測定が求められます。それに加えて、当社が扱う検体はマトリックスが非常に複雑です。生薬からの抽出物を濃縮した漢方製剤や生薬そのものを扱っており、乾燥スパイスのような「難分析試料」に分類されるものが多いですね。
そうした複雑なマトリックスの中から、目的のカビ毒だけを正確に測定しなければなりません。そのため、夾雑物を除去する精製工程では抗体カラムを使用しています。
ただ、このカラムは一般的なカラムに比べてかなり繊細な取り扱いが必要で、操作条件が結果に大きく影響します。カラムに負荷する際の溶媒の通液速度、溶出時の待ち時間など、細心の注意を払って条件を組んでいます。
そのため、原理を理解した上で適切に操作する必要があり、作業者の熟練度により結果が左右されやすい点を如何にコントロールするかが課題でした。
中村さん:当社の作る漢方は医薬品であり、体調の優れない患者様が服用する製品です。患者様が安心して服用できるように、製品の品質担保には非常に力を入れています。カビ毒に関しては当社製剤の全処方に対して、既に全ロットの検査を実施しています。マニュアル操作により年間数千検体を処理している状況下で、我々、試験法の開発部隊が構築する次世代の試験検査法には、試験の信頼性確保と試験作業の効率化の両立が求められています。
◆高い操作性とGMP対応が選定の決め手
―自動前処理装置導入にあたり、何を重視されましたか。また、Extrahera を選定した決め手も教えてください。
野村さん:装置選定において重視したのは、構成のシンプルさと操作性ですね。他社の装置では、モジュールの組み合わせやプログラミングが必要なケースもあり、操作が複雑になる傾向がありました。
一方で、本装置は一体型で設計されており、手順に沿って操作できるため誰でも扱いやすい点が大きな利点です。また、トラブル発生時にも原因の切り分けが容易である点を評価しました。
品質検査では複数の検査員が使用するため、誰でも無理なく扱えることが重要です。Biotage® Extrahera™ は、タッチパネルによる直感的な操作が可能であり、日常業務に組み込みやすいです。さらに、医薬品試験に不可欠な GMP 要件 への対応として、権限管理や監査証跡などのデータインテグリティ機能を備えている点も大きな選定理由となりました。さらに、同等機能の他社装置と比較して現実的な価格帯であったことも導入を後押ししました。
◆自動化によって実感できた作業効率と再現性の向上
―実際に Extrahera を導入されてどんなメリットがあったでしょうか。
野村さん:最も大きなメリットは、自動化による作業効率の向上です。Extrahera が処理を進めてくれている間に別の業務を並行して行えるようになり、全体の作業効率が大きく改善しました。また、ガスによる加圧通液機能によりカラム内の通液速度が安定し、分析結果の再現性が良くなった点も大きなメリットだと感じています。マニュアル操作ではどうしてもばらつきが出やすかった部分が改善されました。さらに検体数が増えてくると、その効果はより顕著で、マニュアル操作と比較してスループットの優位性がはっきりします。例えば、カビ毒の精製工程において 1 人では日中に処理するのが難しいような 24 検体でも、Extrahera を使うことで約 3 時間で前処理が完了できる点は助かっています。
―繊細な操作を必要とする抗体カラムを使った前処理においても、弊社の Extrahera が有効であったとのこと、良かったです。
野村さん:試験法開発の面でもメリットがありました。前処理操作の再現性が向上したことで、結果不良時の原因究明において操作上の問題なのか、試験性能そのものの問題なのかを切り分けやすくなりました。その結果、試験法開発のスピード向上にも寄与しています。
―実際に運用されて生じた課題などはありましたか。
野村さん:比較的濃度の高い界面活性剤を含む粘性の高い溶液を分注する際に、当初はチップの先端に泡が発生してしまい、その泡がはじけるといった事象に悩まされました。ただ、製品ラインナップには一般的なチップだけでなく、口先の広い Wide Bore チップが用意されており、そちらを使用することで、この課題は解消できました。こうした細かな操作上の事象に対しても、用途に応じた選択肢となる製品を持っている点は心強いと感じています。このような利用者目線でのソリューションの開発をぜひ継続いただきたいです。
また、条件設定の際には御社のエンジニアに相談させていただき、操作条件や考え方について具体的なアドバイスをいただけた点も助かりました。装置や前処理の特性を踏まえたサポートが得られたことで、根拠を以って条件検討を進めることができました。御社の総合的な技術力の高さは、研究パートナーとして御社を選定する大きな理由の一つです。
―ありがとうございます。最後に今後のご要望や展望について教えてください。
野村さん:今回導入した Extrahera Classic モデルは 1 mL サイズのカラムにも対応しているため、カビ毒試験だけでなく、今後は残留農薬試験法など、他の品質検査への展開も進めていく予定です。
一方で、抗体カラムを用いたカビ毒試験の自動化については試験条件の骨格を完成させましたので、将来的に、数千検体のサンプル前処理をこの装置が一手に引き受けてくれることを期待しています。また、より短時間で多数の検体を処理できる条件の開発のために高スループット化を目的とした大容量モデルの導入も視野に入れています。
―仰る通り、今お使いになっている抗体カラムのサイズと分注量を考慮すると5 mLチップを用いて分注を行う HV-5000 モデルでは更なるスループットの向上が期待できると思います。
辻岡さん:品質管理部門において全ロット、年間数千検体の検査への実装が実現すれば自動装置の使用頻度も上がっていきます。安定的に装置を運用できるようなノウハウをユーザー間で共有できると良いですね。
―是非検討させていただきます。本日は長時間にわたり貴重なお話をいただきありがとうございました。
今後ともよろしくお願いいたします。
インタビュー実施:2026年03月24日
PDFファイルダウンロード(1.0MB)
導入製品
自動サンプル前処理システム
Biotage® Extrahera™Classic
URL: https://www.biotage.co.jp/products_top/sample-preparation-products/extrahera_Classic/
チップ式分注機能と加圧式送液機能により、ろ過、除タンパク処理、固相抽出(SPE)などの前処理を自動化します。
“使いやすさ”を重視し、ユーザーが装置を自由に使いこなせるようソフトウェアをデザインしています。
導入企業
株式会社ツムラ
株式会社ツムラは、パーパス「一人ひとりの、生きるに、活きる。」を掲げ、天然物由来の医薬品・製商品・サービスを通じて健康長寿社会の実現を目指す研究開発型製薬企業です。医療用漢方製剤のリーディングカンパニーとして、漢方医学と西洋医学の融合による最適な治療の実現、未病への対応、養生の実践など多面的な価値創造を推進しています。
国内外のパートナーとの連携を通じて漢方の可能性を広げ、心身と社会のwell-beingが調和する未来の実現に挑戦しています。
