鳥取大学大学院工学研究科化学・生物応用工学専攻(生物有機化学研究室)

ペプチド合成を利用した生体分子の機能
解明研究に Initiator+ Alstra を活用

~複雑な生体分子も簡単合成!時間もコストも有効活用~

鳥取大学大学院工学研究科化学・生物応用工学専攻(生物有機化学研究室)
鳥取大学大学院工学研究科化学・生物応用工学専攻(生物有機化学研究室)

鳥取大学大学院工学研究科化学・生物応用工学専攻(生物有機化学研究室)では、生体分子の機能解明を目的とした機能性ペプチドの合成、遺伝子変異性がん治療を目的とした人工核酸の合成と機能評価など、有機合成を基本とした新規生体関連物質の合成から医療分野へ応用展開する研究をしています。
研究の中心部分でもあるペプチド合成には、バイオタージのマイクロウェーブペプチド合成装置 Initiator+ Alstra を活用いただいています。
今回は、同研究室の櫻井敏彦准教授、大学院の濱下優介さんにお話をうかがいました。

― 先生の研究の内容について教えてください。

櫻井先生 :
研究分野は、生体関連化学に分類されます。その中でも、タンパク質・ペプチド、核酸、脂質化合物などの「生体分子」を対象としていますが、生体分子そのものを研究するのではなく、それぞれの生体分子に新たな機能を付加した機能性生体分子を人工的に合成して、生体にどのように作用していくのかを調べています。実際には、目標とする機能を発揮するような分子を設計してから合成していく過程を経るのですけどね。特にペプチドが誘起する機能に惹かれていて、ペプチド分子の研究が大半です。

― 主にペプチド合成をされていたのですね。ペプチド分子の研究といっても幅広いと思うのですが、なかでもどういったことをご研究されていたのですか?

櫻井先生 :
もともと超分子化学の研究をしておりまして、規則構造(分子がきれいに並んだ構造)を創り出すためにペプチド分子を用いていました。ペプチドのアミノ酸配列を制御すると、勝手に、というと少しおかしく聞こえるかもしれませんね。自己組織化と言っていますが、1次元構造体を形成したりするんです。

アルツハイマー病に見られるアミロイド繊維(線維)構造も同様の構造ですので、類似アミノ酸配列をモデル化したペプチドを用いて、線維化機構の解明や、応用展開に必死でしたし、今もしつこく研究しています(笑)。この他にもペプチドは、たくさんの機能を発揮して生命現象を支えてくれているんです。このようなペプチドに魅せられたのでしょうね、ペプチド分子から派生している人工核酸の研究も現在進めていますが、すぐにペプチドの力を借りようとするあたりは自分でもペプチドフリークかなと思いますけどね。

― ペプチドの自己組織化構造と同時に、人工核酸による遺伝子発現制御に関するご研究もされているわけですね。

鳥取大学大学院工学研究科化学・生物応用工学専攻(生物有機化学研究室)櫻井先生 :
はい、そうですね。人工核酸といってもいろいろな種類があるのですけれども、私たちはペプチド核酸(PNA)を用いています。PNAもペプチド合成が基本なんです。生体温度近傍で1塩基多型(SNPs)を認識する人工核酸を設計しようと。生体内で1塩基の違いをみわける人工遺伝子を創り出すことができれば、遺伝子治療薬として展開できるのでは、と。まあ、世界中の研究者によって様々なアプローチがなされていますが、私たちもPNAと汎用ポリマーのコンジュゲートで構成された人工核酸を合成して、成果を上げてきました。もちろんこのときは手合成だったのですけどね。

― そのようなご研究の中で弊社の装置マイクロウェーブペプチド合成機Initiator+ Alstraを知ったきっかけというのは?

櫻井先生 :
キャノン財団の支援の下で、私どもで開発した人工核酸を、1塩基変異性の大腸がん治療へ展開しようと考えたのです。大腸がんの患者さんのうち、約4割の方にはこの遺伝子変異があって、その方々には最新の抗がん剤の効果が低いことが報告されています。この遺伝子変異性大腸がん治療に、私たちの人工核酸を利用できないかと考えたのです。

人工核酸そのものはすでに設計できていたのですが、実際に治療に用いるためには、まず細胞内で同様の機能を発揮できるか確認する必要がありました。細胞内に入れる段階になって、全然うまくいかなくて…。これじゃダメだということで、細胞中で機能を発揮するシグナルペプチドを導入した複雑な分子構造をもつ人工核酸を合成しようとしましたが、複雑すぎて手合成では無理でした。

「もう本当に無理なのかな?」と悩み続けて、さまざまな装置を調べていたとき、以前聞いた「マイクロウェーブ」を思い出して、これも試してみようかと思ったのです。それで数社にコンタクトをとってすぐに貸して頂けたのが、バイオタージさんだったんです。たしか1ヶ月ほどお借りしましたね。
もしもあんなに早く対応して頂けなかったら、他社さんになったかもしれませんね(笑)

― はい、そうでした(笑)。結局導入して頂けた、一番の決め手は何だったのでしょうか?

櫻井先生 :
当時WEBで、数社の装置を見て検討しました。その中で、バイオタージさんの装置はデザイン性が高くて、とても気に入りました。
非常にシステマティックにも感じましたね。ですので、一番最初のデモ機はバイオタージさんにお願いしてみようとなったわけです。
すぐに対応頂けて、実際に装置をこの部屋で見た時は、とてもコンパクトでビックリしました。
ただ、予算の関係上どのクラスの機種になるかちょっとわからないって申し上げましたけどね(笑)。

◆ひたすら時間をかけた手合成の時代=体力の限界とヒューマンエラー

― Initiator+ Alstraの導入前はどういった手法でやっておられたのですか?

櫻井先生 :
それはもう……、ひたすら手合成です(笑)。
クロマトのポンプを利用して。いわゆるクロマトでサンプルをインジェクトさせるのと一緒です。手詰め用のカラムだけを買ってきて、その中に試薬を1つずつ入れて中で反応させて、また洗って脱保護する…という作業を、ものすごい時間をかけてひたすらやっていましたね。

濱下さん :
もう同じ操作ばかりしてるので、…なんか朦朧(もうろう)としてきて、気がついたらアミノ酸を入れ忘れたりしたこともありました(笑)。

櫻井先生 :
当時、1日の手合成は8~10残基が限界でした。20数残基になると2~3日掛けながら、もう…、ヘトヘトになりながら。するとヒューマンエラーを起こしてしまったり…。ですから、長鎖ペプチドになると最後まで合成できない学生が続出しました。濱下君は長鎖ペプチドを合成できる数少ない学生の一人ですけど、ひたすら手合成やってましたね。

濱下さん :
はい、そうですね(笑)。

◆Initiator+ Alstra導入で “劇的” に変化した研究環境

― そこにInitiator+ Alstraを導入して、どのように変わりましたか?

鳥取大学大学院工学研究科化学・生物応用工学専攻(生物有機化学研究室)櫻井先生 :
いや、それはもう、劇的に変わりましたね。

濱下さん :
ホントに、劇的に、すべてが変わりましたよね。

櫻井先生 :
Initiator+ Alstraでは、「いつ終わるのか」を確認するだけですからね。終わる時間にちょっと見に来なきゃ、って感じですよね。
これまでのような、いつ終わるのかわからない実験をずっとしているのではなくて、終わる時刻を考えて実験を仕込むようになったというところが、劇的に変わった点の1つですね。

濱下さん :
そうですね。それに試薬の量もかなり減りました。

◆大幅な時短・効率化とフレキシブルな操作性

櫻井先生 :
それに、時間が出来たので学生たちと交流を持つ時間も増えました。
私自身も、気持ちがとても軽くなった感じですね。以前なら、「さぁ、手合成がんばるぞ!」って勢いを付けて取り掛かっていましたが、今はもっと気楽に、「これが終わったら次はこれをやってみよう、その次はこれも…」っていう感じです。
私の中では、心の持ちようが変わったというのは劇的な変化でした。

― 先生の「心の持ちようの変化」というのは? 大量の試薬や溶媒のロスなどが、やはりプレッシャーだったのでしょうか?

櫻井先生 :
それもありますが。以前ならば、20残基ぐらい残っていると2~3日かかりますし、本当にものすごい時間と体力を費やしていたので、もう大変な作業だったのです。

Initiator+ Alstraを入れてから実験の環境は変わりました。時間を有効活用できますから、新たなテーマを検討したり、みんなの研究状況のフォローなども可能になったという点で…、「余裕ができた」という方が合っているかもしれません。

もちろん彼が言ったように試薬の量、特に溶媒の量も変わりましたね。クロマトのポンプで、湯水のごとく使っていたのですが、それが1/3から1/4、1/5程度に減りました。最初、バイオタージさんのガイドでウォッシュするところを見て、「こんな少量でちゃんと洗えるんだろうか?」って心配でしたけど(笑)。しっかり洗え ます(笑)。

― 導入してみて、最も良かったと思われる点はどういうところですか?

櫻井先生 :
大幅な時間短縮と、コストですね。1回あたりのランニングコストがとても安いですよね。それから、ヒューマンエラーがないというのが、一番大きなメリットですね。

導入初期は、いわゆるメソッドを全部入れなきゃいけないので、それがちょっと面倒とも思いましたが、反応条件に関するプロトコルを自在に組めるという点もいいですね。パラメーターの多さに当初は混乱していましたが、慣れてしまえばこのおかげでいろいろな反応に対応できる、フレキシビリティの高さという点で素晴らしいと思います。それに既存の装置と比べてみて操作性も良いです。

◆導入当初の不安や戸惑い…装置の疑問は専門アドバイザーに質問

― 大変光栄に存じます。日常、ご使用されてみていかがですか?

鳥取大学大学院工学研究科化学・生物応用工学専攻(生物有機化学研究室)櫻井先生 :
そうですねぇ、Initiator+ Alstraを使い始めて約1年ですが、最初(=特に導入当初)は、やはり今までと全く勝手が違うので不安や戸惑いもありましたね。反応スケールに合わせた溶液量もイメージできませんでしたから(笑)。
しかし、バイオタージさんには「アプリケーションサポート」の方が居られるので、いろいろ相談ができて、かなり助かったと感じています。
プログラムのことや製品の使い方や、その他いろんな質問をさせてもらっています。
いつも的確なアドバイスを頂けて有り難いですね。本当に感謝しています。

― 弊社アプリケーションサポートをご活用頂き、ありがとうございます。今後も気軽にアプリケーションサポートをご活用ください。

櫻井先生 :
今では、使えば使うほど良い装置だとわかったので、もっとこうしたら楽になるとか、そういうことがたくさんありますね(笑)。思いついたらペプチドの担当者さんにも相談させてもらっています。本当にいろいろとご存じですよね(笑)。

 

◆機能を追加してさらなる有効活用にも期待

― では最後に、弊社に対するご意見・ご要望、今後の研究のご予定など何でも忌憚なくお聞かせください。

櫻井先生 :
様々な保護基の脱保護条件が拡充されるとありがたいですね。マイルドな条件で長時間かけて処理する反応条件が、例えばマイクロウエーブを照射することで短時間で反応を進行させることができたりすると、ありがたいですね。

私たちの研究分野は、いろいろな機能性分子の設計を考えますが、実際に合成できなければ研究は進みません。Initiator+ Alstraを用いることで複雑な分子の合成が可能になるだけではなく、多様な有機合成に展開活用できると面白いな、と思っています。

研究予定ではありませんが、Initiator+ Alstraであれだけ速く合成できるようになったのですけど、今度は、精製の方が追いつかなくなってきました(笑)。
合成も分取もどちらも人間の手でやっていたときはどちらもスローペースでしたけど、合成が律速だったような気がします。今回のInitiator+Alstraで合成のスピードが一気にアップしましたよね。ですがその後の精製スピードが相変わらずですので、サンプルがどんどん貯まってしまって、結局スローペースのままなのです。思わぬ誤算でした(笑)。分取のペースアップが出来れば、また一気に変わるでしょうね。

― 貴重なご意見、ご提案、誠にありがとうございました。今後の製品開発に役立たせたいと思います。本日はお忙しいところ、どうもありがとうございました。

インタビュー実施:2017年5月
PDFファイルダウンロード(1.32MB)

導入製品

全自動マイクロウェーブ ペプチド合成装置
Initiator+ Alstra

URL: https://www.biotage.co.jp/products_top/flash-purification/aci/

全自動マイクロウェーブ ペプチド合成装置 Initiator+ Alstraユーザーフレンドリーなタッチパネル操作、優れたマイクロウェーブ照射による効率的な加熱反応、デジタルシリンジポンプによる正確な試薬送液により、高精度かつ可能性の広がるペプチド合成を行えます。

導入機関

国立大学法人 鳥取大学

URL: http://eng.tottori-u.ac.jp/

鳥取大学大学院工学研究科化学・生物応用工学専攻(生物有機化学研究室)鳥取大学は、県内の師範学校・医科大学など5校を母体として1949(昭和24)年、新設大学として開設されました。数回にわたる学部増設の後、現在は4学部6研究科の総合大学となり、「知と実践の融合」を基本理念に鳥取・米子の2つのキャンバスで学んでいます。
工学部は1965年に、山陰初の工学部として設置され、新世代のニーズに合わせた工学系人材養成をしています。
工学部URL http://chembio.tottori-u.ac.jp/introduction/idea