全波長+高速処理で見落としも防止!
Isolera で限られた時間を有効活用

同志社女子大学
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同志社女子大学薬学部医療薬学科・医薬品製造化学研究室では、創薬を目的とした幅広い新規反応開発と多様な合成研究を行っています。その化合物精製の際にバイオタージのフラッシュ自動精製装置「Isolera Spektra」をご活用いただいています。今回は同研究室の榎本光伯特任助教、細野友莉菜特任助手にお話をうかがいました。

― まず、先生のご研究内容やテーマについて、教えてください。

榎本先生:
研究内容をひとことで言うと「生理活性物質の合成」です。薬学部ですので、薬をつくることが大きなテーマであり、そのための合成とそこに至る新しい反応の開発や方法論を作ることも研究しています。
現在は、2つのテーマ『キラルジアミン―Cu錯体を触媒にした不斉非対称アシル化』という反応、そして『NHC-Pdを触媒にしたアルデヒドへのボロン酸の1,2-付加』という研究を進めており、そこから融合される生理活性物質を合成したい、と考えています。

前者は、私たちの研究室の白井隆一教授が以前から継続的研究テーマとしている『対称ジオールの不斉アシル化』というものです。
左右対称のOH基の右または左だけを選択的にアシル化すると、一回の反応でキラル化合物に変えられる画期的な方法です。予め炭素の周囲全部に置換基を入れて一度に反応させる、という方法をとっており、学生たちは多様な反応条件で研究しています。

同志社女子大学後者の『NHC-Pdを触媒にしたアルデヒドへのボロン酸の1,2-付加反応』は、以前の研究室スタッフでした栗山正巳先生(現・長崎大学大学院医歯薬学総合研究科准教授)との共同研究です。この反応は、触媒調製段階と反応時に塩基が必要なのですが、塩基性が強すぎると原料のキラルアルデヒドがラセミ化するという問題があり、これをどうすれば抑えられるかを考え研究しています。最近、この問題を解決する新しいボレート塩を学生が思いつき、先日、ようやく試薬の合成に成功しました。
その学生は、『新規化合物に自分の名前をつけて特許を取りたい!』と一生懸命取り組んでくれましたので、なんとか夢を叶えようと私たちもサポートをしているところです。

― 試薬に自分の名前がつくなんてすごいですね!大変な情熱を持っていらっしゃる学生さんですね。試薬カタログに、学生さんの名前の試薬が載るかもしれませんね、楽しみです。

榎本先生:
実験がうまくいくと、次の実験もやる気が出ますよね。逆に良い結果が出ない場合は、学生たちも落ち込んでしまう。不斉非対称アシル化の実験でも、つい先日やっと成功して大喜びでした。

― 時間をかけて実験したのに、上手くいかなかった時にはそれはショックですよね。でも頑張って成功したときのやりがいは大きいですね。

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同志社女子大学薬学部医療薬学科・
医薬品製造化学研究室
榎本 光伯 特任助教

榎本先生:
ただ私たちの大学は女子大なので、夜8時には終了して帰宅しないといけません。多くの実験をさせてあげたいけど、時間に制限もあるので、悩んだ結果、精製装置を導入することにしたのです。

― 先生がIsolera Spektraを導入されたきっかけを教えていただけますか。

榎本先生:
最初は、マイクロウェーブ反応装置の導入を検討しているときにバイオタージの製品を紹介してもらったことがきっかけです。その時に、私はバイオタージの製品のスタイリッシュなデザインがとても印象的でした。

残念ながらマイクロウェーブは他社製品を導入したのですが、次に自動精製装置を紹介していただいたので、検討してみることにしたのです。やはり、デザインや外側のブルーが格好よくて(笑)。そこで一度デモ機を借りてみることにしてみました。

◆Spektraで気づいた、UV吸収の「谷間」

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同志社女子大学薬学部医療薬学科・ 医薬品製造化学研究室 細野 友莉菜 特任助手

― お使いになってみていかがでしたか?

榎本先生:
最初のデモの時は、実はそんなに触ってなかったのです。やはり難しそうなイメージだったし、学生たちもみんな怖がってしまってね。「自分が時間かけて作った大事な化合物を装置に入れて、ロストしたらどうしよう」なんて言って。

― 他社の装置もご検討されたと思いますが、最終的にIsolera Spektraに決めた理由はどういうところでしたか?

榎本先生:
実はデモを2回して頂きました。1回目ではまだ他の装置と悩んでいました。そこで2回目のデモではSpektra機能を付けてデモすることをご提案して頂いたのです。

― 『全波長』で検出する機能ですね。

榎本先生:
その時、今まで見落としていた化合物があることに気づきました。
化合物にベンゼン環が入っているのでごく当然のように254nmでずっと見ていましたが、他の修飾基との相互作用なのか、254nmの吸収がほとんど無いと判明したのです。254nmはちょうどUV吸収の谷間だったんですね。TLCでチェックした際もUVで見て薄かったはずですよね。

それに気づけたのは全波長で見ていたからわかったことで、これがなければずっと化合物ができていないと見落としていたと思います。ベンゼン環があるから、二重結合があるから、と思って見過ごしていたんですね。

― ベンゼン環があるのに254nmで検出できない化合物がある、といった現象自体、化学っておもしろいなぁと思いますね。

榎本先生:
本当にそうですね。もしかしたら、とか少しは思っていましたが、254nmの吸収がほとんどないのに、まさか全波長でこんなに吸収があるなんて。ちょっと予想外でした。

― 今回のように「見えなかったものが見えるようになる」という発見を、たくさんの方にしてほしいと思います。皆さんがせっかく合成していたのに見落とすっていうのは本当にもったいないですよね。

同志社女子大学榎本先生:
化学者としては一番避けたいですよね。
だからこそ以前から紫外可視吸光光度計で波長のピークを知らなきゃいけないと思っており、いつも装置を探してはいました。Isolera Spektraには精製装置なのにその機能が付いているのですね。
分取後は3次元(3D)で一度にスペクトルも見ることができるし、喜びましたね! 欲しかったものが全部付いているのですから(笑)。

細野先生:
私もよく3Dで確認をしています。吸収のピークが254nmとは限らないと分かりましたので、3Dで各化合物のピークを確認するようにしています。ピークを3Dで一度に見られるのはとても便利ですね。

◆『λ-MAX(極大吸収波長)はどこにあるのか気にするようになりました』

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全波長3Dスペクトル表示

榎本先生:
学生たちも自分の化合物のλ-MAX(極大吸収波長)はどこにあるのか気にするようになりました。自分の研究に最適な条件はどこかな?と考えるようになりました。

学生たちがやった研究が必ずしも職業につながるとは限らないので、学生たちにとっては、こうやって問題を発見するプロセス、それを解決に導く過程を学ぶトレーニングの1つとして『研究』があると考えています。

操作性なども気に入ってますが、やはりこの全波長機能が決め手で導入することにしました。

― 全波長は『気づかなかったものに気づかせてくれる』機能ですよね。Isolera Spektraを導入されて、導入前と比べて良くなった点など具体的にはございますか?

榎本先生:
今までもかなり厳しい条件で分離していたので、この装置を使って分離できたときはうれしかったですね。工程数のある実験でも全体的に速く進むようになったと思います。

マニュアルを読まなくても感覚でだいたい理解できるから(笑)、みんな「Isolera、使っていいですか?」って聞いてきますよ。

細野先生:
画面のメッセージが全部日本語なので、学生たちでも使えますよね。もし英語で書いてあったらエラーの時など特にどう対応していいか学生はわからないかもしれません。

榎本先生:
わかりやすくて使いやすいし、スタイリッシュですしね。それに、溶媒瓶が4本乗せられることも! 4ラインあるから当たり前ですが、結構これってパンフレットではわからない点ですね。

◆『研究者にしかできないことに時間と労力を費やしてほしい』

同志社女子大学榎本先生:
Isolera Spektraが入ってから、実験の進め方がガラッと変わりました。
体力と睡眠時間を使ってやっていた手カラム(マニュアルカラム)が、装置に乗せれば10分後にはそこに結果が出るのですからね。
そりゃ使いますよね。

学会発表前には、テーブルを増やすために大急ぎで「1日反応5個!」とか、無理な事も言えるようになりました。昔なら無理でしたが、今では単離収率まで出せます。

細野先生:
私たちの大学は夜遅くまで残って実験することが出来ないので、短時間で処理してくれるIsolera Spektraは非常にありがたいですね。

卒業後はほとんどの学生が薬剤師として働くので、将来的にカラムを必要としない人も多いとは思いますが、今のうちに手カラムの経験を積むことも大切です。

特に『薬剤師国家試験』の出題範囲にも化合物の極性や分析方法の一つとしてカラムクロマトグラフィーなど関連分野が入っているので、大学で実験をしながら身につけてほしいと願っています。そうすると、Isolera Spektraを使う時もだいたいの設定の見当がつくようになりますしね。

同志社女子大学榎本先生:
経験を積んで、自分でも数多くカラムを経験していくと、そのときに別の選択肢としてIsolera Spektraという装置もある、という感じです。どちらが良いかというのではなく、臨機応変に使っていってほしいですね。
分ける作業って論文などには載らないし、フォーカスもされない部分で、たいしたことじゃないと思われがちなわりには、結構大変です。でも今は装置で精度良く分けることができます。
それなら、分けるとこはIsolera Spektraに任せて、研究者は研究者にしかできない部分に力と時間を注いでほしい。そのためのツールですね。決してメインにはなり得ないけれど、どこでも誰とでもうまくやってくれる「名脇役」というかな。いい仕事をしてくれますよ(笑)。
装置との付き合い方次第ですよね。

― 「名脇役」、そう言って頂けて光栄です。装置は脇役でメインは研究者ですからね。

◆ユーザー同士のノウハウを共有できるサイトを

― Isolera Spektraのデメリットやバイオタージに対するご意見ご要望などありましたらお願いいたします。

榎本先生:
バイオタージさんも「カラムの原理からIsoleraの上手い使い方1日セミナー」とかを開催してほしいですね。Isoleraは簡単なのでノウハウがなくても使えるわけですよ。「Isoleraだからできるちょっとしたワザ」があれば、みんな知りたいと思うのです。たとえばアミノ酸の分離とか、実はこうすれば効率良く短時間で出来るとか。個人的には、Isolera Spektraでキラル分取したいと考えているのですが。

あと、Isoleraで「リサイクル分取」が出来たらいいな、と思いますね。せっかくあれだけポンプ圧があるのに出来ないのはもったいないですよね。現在の装置でリサイクルする場合は、ヒトがピークを見て、捨てる・戻すという選択をしていますよね。次世代装置では、例えばそれをIsolera Daltonに接続して、「このMSピークだけをリサイクルで集める・これだけ持ってくる」という判断を、究極的にはIsolera自身がやってくれるといいですね。

― たしかにマスと絡めると、ピークが同定されやすくなって、分離できやすくなりますよね。

榎本先生:
リサイクル分取でも、ピークで存在はわかってもその正体がわからなかったのです。でも、Isolera DaltonならMSで見ているから大丈夫でしょう。問題はそれがジアステレオマーだった時に混乱する・・・ということですね(笑)

― 画期的ですね!開発の参考にさせていただきます。他にはご意見ございませんか?

榎本先生:
たとえば、ユーザー同士が精製でわからない点を質問したり、別のユーザーが回答書き込みしてみるのもいいな、と思いますね。他社では既にありますよね。各ユーザーが持つ情報を、ユーザー同士でダイレクトに書き込んで解決できると良いですね。
バイオタージさんって、私たち実験化学者の「コレがあったらいいのに」っていうポイントをついてくれるのですよ! 色々期待しています。

― ありがとうございます。弊社の英語サイトには似たようなサイトがあるのですが、日本でも同様なサイトを作っていきたいですね。たくさんのユーザーさんの持つ知識を活かしていきたいと思います。

多くの貴重なご意見・ご提案はぜひとも有効に活用させていだきたいと存じます。本日はおそがしいところ長時間ありがとうございました。

インタビュー実施:2016年6月
PDFファイルダウンロード(1.2MB)

 

導入製品

フラッシュ自動精製装置
Isolera Spektra

URL: https://www.biotage.co.jp/products_top/flash-purification/isolera_top/

精製に対するケミストの要望を最大限取り入れた、コンパクトな最新のフラッシュ精製システムです。Spektra(オプション)では、全波長スペクトルスキャンにより、ベースライン補正ができるだけでなく、より化合物認知を確実に行い、取りこぼしなく化合物を回収します。

導入機関

同志社女子大学

URL: http://www.dwc.doshisha.ac.jp/

同志社女子大学は1876 年、京都の地に同志社の創設者・新島襄、妻・八重、アメリカ人宣教師A.J.スタークウェザーらによって設立されました。「キリスト教主義」「国際主義」「リベラル・アーツ」に基づく伝統と柔軟な変革の歴史を持ち、現在は京田辺、今出川の両キャンパスに6 学部11 学科1 専攻科4 研究科、約6,600 名の学生が学ぶ女子総合大学となっています。
薬学部医療薬学科は、同大学の教育理念に基づいた「医療人としての薬剤師の養成」が教育目標です。基礎薬学分野と医療薬学分野の科目をバランスよく履修する一方、実習など実践的な授業も重視しています。薬学に関する英語能力の向上や海外研修などを通じて国際性豊かな医療人を育成します。