マイクロウェーブで一気にムラなく加熱!

~ 金属ナノ粒子/MOF複合体形成に
マイクロウェーブ合成装置 Initiator+ Eightを活用 ~

甲南大学 フロンティアサイエンス学部 生命化学科 ナノ材料科学研究室
甲南大学 フロンティアサイエンス学部 生命化学科 ナノ材料科学研究室

甲南大学フロンティアサイエンス学部生命化学科 ナノ材料科学研究室では、液体と固体界面での反応による材料合成とその応用研究を行っています。金属ナノ粒子や高分子フィルム上でのMOF(金属有機構造体)構築の際にバイオタージのInitiator+ Eightをご活用いただいています。今回は同研究室の鶴岡孝章講師にお話をうかがいました。

― まず、先生のご研究についてご説明お願いいたします。

鶴岡先生:
もともと私は金属や半導体のナノ粒子を合成することを研究していました。金属ナノ粒子とは非常に小さな粒子で、通常検出できないようなものが金属ナノ粒子の表面近くに存在すると、様々なシグナルが増強される効果があります。これは金属ナノ粒子の「表面プラズモン共鳴」という現象によるもので、「ラマン散乱」や「蛍光」といったシグナルが増強される効果があります。

― 「表面プラズモン共鳴」とは、具体的にはどういった現象なのでしょうか。

甲南大学 フロンティアサイエンス学部 生命化学科 ナノ材料科学研究室鶴岡先生:
金属の中には、「自由電子」というものがたくさんあり、それらが動くことで電気が流れたりします。
通常は、金属中に電子が均等に存在するのですが、光は一種の交流電場なので、ナノ粒子に光が当たると粒子の自由電子が振動するようになります。これを「表面プラズモン共鳴」と言います。

この電子の振動は、その名の通り金属の表面で起こりますが、金属をナノ粒子化すると発生したプラズモンが表面に局在化するようになるのです。

この効果を利用すると、通常検出できないものが検出できるようになります。
たとえば一つの分子が表面にあるとき、通常その分子を認識するのは難しいのですが、この効果を利用するとそのシグナルの感度が数千から数万倍にもなることがあるので、たとえナノ粒子の表面に分子が一つしか存在していなくても高感度で検出できる、といえます。

ただし逆に問題点もあって、ナノ粒子の表面にはターゲットとなる分子だけが存在するわけではありません。ナノ粒子の効果を利用してターゲットを測定したいが、ターゲットだけをナノ粒子の表面に存在させることができない…。そこで、ナノ粒子の周りをMOF(金属有機構造体)で覆い、空間的に入れるものと入れないものをコントロールするのです。

― 過去にインタビューさせて頂いた、あのMOFの登場ですね。あの中にナノ粒子を入れるのでしょうか?

甲南大学 フロンティアサイエンス学部 生命化学科 ナノ材料科学研究室
甲南大学フロンティアサイエンス学部生命化学科 鶴岡 孝章 講師

鶴岡先生:
そうです。つまり、感度はナノ粒子に担わせて、選択性をMOFに担わせたら、高感度高選択というセンシングシステムが構築できるだろう、と研究を行っています。

京都大学の北川先生のところでポスドクをしていたときにMOFというものに出会い、研究を行っていました。『MOF』に出会わなければ生まれなかった研究かもしれませんね。

― 2つを組合わせるアイデアは素晴らしいですね。

鶴岡先生:
この研究での難しいところは、ナノ粒子の表面でMOFの形成反応が難しいという点です。
金属表面で反応させるのは、すごく課題が多く…。ですので、ナノ粒子表面から一旦離れてみようとなりました。そこでまずは、「ある界 面で選択的にMOF形成反応を起こすためにはどうしたらよいか?」というところに取り組んでいます。

そこで今は高分子フィルムを使って「選択的に」MOF形成反応をさせようと研究しています。
通常のMOF形成では溶液に金属イオンと有機配位子の両方を入れますが、私たちは高分子フィルムに金属イオンを担持させておき、そのフィルムを有機配位子が入った溶液に浸けて反応させるとどこで反応が起こるか?…というのを確認しています。

― なるほど、もしこのフィルムでMOF形成が制御できれば、次にこれの代わりをナノ粒子にするということでしょうか?

鶴岡先生:
はい、そうですね。結局はナノ粒子も「固体」ですから、固体と液体の界面でうまくMOFの反応を起こすための一つの工夫として、金属イオンを固体側に担持させてしまう、ということです。

◆選択的に反応させるには、マイクロウェーブで一気にムラなく加熱

― そのようなご研究の中で、マイクロウェーブにたどりついたきっかけというのは?

鶴岡先生:
MOFを作製する場合、一般に加熱するわけですが、「いかに固体表面で選択的に反応をおこさせるか?」を考えたとき、”加熱”というのはそもそも選択的ではなくて、どうしてもムラができます。オイルバスで加熱すると周囲から徐々に温度が上昇してムラができるわけです。
そこで「選択的に」反応を起こさせるためには、反応を早く起こさせることが必要なんです。そうなるとマイクロウェーブ照射を使えば一 気にその温度に上げられるのです。

― それはオイルバスでやっていた頃に「あまり制御できてない」と感じておられたからですか?

甲南大学 フロンティアサイエンス学部 生命化学科 ナノ材料科学研究室
実際にお使い頂いているInitiator+ Eight

鶴岡先生:
そうですね。もちろん表面で反応は起こりますがあくまで「優先的」に起こっているだけで、「選択的」ではなかったのです。
究極の目標は「その表面だけで起こること」ですからね。いろんな条件で検討しましたがオイルバスでは出来ませんでした。実は一つだ け方法が見つかったのですが、その条件以外では全く対応できなかったのです。そこで、それを実現するために、マイクロウェーブを選びました。

― 弊社のマイクロウェーブをデモしていただきましたが、その経緯を教えていただけますか?

鶴岡先生:
最初のInitiator+を導入したのはたしか、2014年頃だったかと思います。
私が京都大学の北川研究室にいた際にはInitiator+は導入されていなかったので知らなかったのですが、甲南大学に来てからMOF形成に悩んでいる際に、北川研究室の古川先生から「使いやすい」という話を聞いて、早速デモを検討させてもらいました。他社製品も見ましたが、ちょっと使いにくそうな感じで・・・(笑)。だから、他社製品と比較せず導入しました。

◆2日間の加熱実験がマイクロウェーブで2-3時間に大幅時間短縮

― ありがとうございます。実際マイクロウェーブを導入してみて、いかがでしたか? 以前と比べて良くなった点などはございますか?

鶴岡先生:
デモ期間だけでは判断できませんでしたが、明らかに反応速度が違いました。
オイルバスで加熱している系では2日加熱していました。それが2、3時間で出来るのでこれは全然違いますよね。

― オイルバスで2日も加熱しないと、反応が進まないのでしょうか?

鶴岡先生:
反応は進みますが、MOFがきれいに並ぶための猶予を与えるのです。分子は熱を与えると活発に動きますよね。一旦付いて離れて、というのを繰り返して最も安定する位置に辿りつきます。長い時間加熱してブレを補正して、ようやく安定した場所にきれいに並ぶわけです。

― それがマイクロウェーブだと2、3時間で済むわけですね。高圧高温のマイクロウェーブでも、2、3時間かかるのでしょうか?

鶴岡先生:
時間については難しいところですが、数十分間で表面にいくつか結晶は出来ています。たとえば、フィルムの表面にポツポツと結晶が乗っているのは確認できるのですが、フィルムの表面にぎっしり詰まっている状態を作るためには2時間位かかるということですね。

◆マイクロウェーブだから沸点以上でもOK。条件の幅を広く設定

― 温度は、オイルバスとマイクロウェーブとでは同じ温度で反応させているのでしょうか?

鶴岡先生:
いいえ、マイクロウェーブでかなり強制的に温度を上げて反応させていますね。オイルバスだと沸点以上になりませんからね。

材料を作るための探索をするときに大きなメリットになるのは、たくさんの条件で検討できるところです。私たちの実験は条件が特殊なので、かなり広い温度レンジで条件検討したいのですが、そこで沸点を越えられないとなると、もうそこで検討がストップしてしまいます。

マイクロウェーブは沸点以上でも可能ですから、条件の幅が広がります。これまでの経験では、液体の沸点を越えたときに、かなりきれいなものが出来るんです。エネルギーも伝わりやすく、圧力もかかりやすいのが好条件となるんですね。

― 熱効率と沸点以上の反応、どちらもマイクロウェーブの利点が役に立っているのは嬉しいですね。

鶴岡先生:
本当にマイクロウェーブはありがたいですね。

― その後2台目を、と思われたきっかけはどういうものですか?

甲南大学 フロンティアサイエンス学部 生命化学科 ナノ材料科学研究室鶴岡先生:
1台目を入れたところ、かなり私たちの望み通りの結果が出るのでどんどん使っていました。そしてあるとき、学生に指示を出したら「先生、今日は装置の使用予定が詰まっているので、そんなにできません」と言われたのですよ。Initiator+の使用予定がいっぱいなんです。……困りましたねぇ。
なので、もう1台入れることを検討しました。ただ、オートサンプラー付き(Eight)にするかどうか、少し悩みました。

何故なら、フィルムと液体を入れておいて反応を仕込むのですが、室温で置いていても本当に何も起こらないといえるのかどうか、注意しなければいけなかったのです。化合物によっては液中にだんだん金属が溶出してしまい、液中でMOFの結晶ができてしまう事例もあったのです。

だから事前に、マイクロウェーブにかける前に放置していても問題ないかどうかを確認していました。
溶出しないものも確認できましたので、心置きなくオートサンプラー付きのInitiator+ Eightを導入できたわけです。今も、溶出するものはInitiator+、溶出しないものはInitiator+ Eight、と使い分けています。

Initiator+ Eightは反応を設定しておけば、夜中のうちに反応をしてくれますからね、この”夜間の時間活用”で圧倒的にスピードアップしましたね。

◆対応の早さ、メンテナンスのしやすさ『この装置にして良かった』

― 導入の決め手は「使いやすそう」ということでしたが、実際に導入されていかがでしょうか?
他にInitiator+の良いところなどはございますか?

鶴岡先生:
一番使いやすさを実感しているのは、学生たちに使ってもらうので「学生がミスしないような装置」という部分ですね。とにかくシンプルですよね。他の理化学装置もよくデモさせてもらいますが、「この画面は必要なのか?」と思う装置も正直あります(笑)。
使い慣れた人にはそれでも良いのでしょうが、幅広いユーザーに対応するかどうかが大事ですよね。

また、画面ももちろんそうですが、学生が使っても問題ない”タフ”な装置だということが一番嬉しいですね。

特に私たちの研究は、厳しい条件で反応させていますので、”タフ”な点はとても重要でした。実はInitiator+のデモ中に一度バースト(破裂)させてしまったことがありまして……。「ウワーッ!」って、全員一斉に振り向きました。ですが、安全面でも問題ありませんでした。

その後営業担当さんが来ていただき、バースト後の装置の復帰方法など説明して頂きました。指示通りにやってみましたが自分たちで取り外してすぐに洗えましたね。もちろんメーカーの専門の人がやるのが一番ですが、自分たちですぐに洗浄して、トリップテスト(温度確認テスト)して機能に全然問題ない、とわかったんですよ。

これなら、今後また誰かがバーストさせても大丈夫だって(笑)。いろいろな機器を使っているので、何かあるたびにメーカーさんが来るのを待つのは大変ですね、実験も止まりますから。そういうメンテナンス面も大事なポイントです。

― デモ時に既にメンテナンス面も知っていただけて良かったです(笑)。他に、こんなことが出来たらいいな、という点などございますか?

鶴岡先生:
私はいつも学生に、実験中は「サンプルの状態をちゃんと確認しよう」と指示をしているので、どのタイミングで色が変わったのか、沈殿が出てきたのか、という状態の変化を見ることができたら嬉しいですね。難しいのは承知しておりますが、出来たらスゴイと思います。

また、細かい時間で抜いてサンプリングできると良いですね。完全密閉しているので原理上ムリだと思っています。今は、フィルムの表面で成長させるのであまり問題ないのですが、「どんな状態」という経過も確認したいのでサンプリングできたら嬉しいですね。

― そうですね、今後、そういった課題も解決できる装置開発も進めていきたいと考えています。他にサポート面などは大丈夫でしょうか。

甲南大学 フロンティアサイエンス学部 生命化学科 ナノ材料科学研究室鶴岡先生:
いつもサポート面で良くしてもらっています。バイオタージはとっても対応が早いですよね。修理担当の方にメールを送ると、よほどのことがない限り当日中にレスポンス頂けますし、翌日には来てもらえます。本当にありがたいです。

学生も「もう装置直ったんですか?」って驚くぐらいですから(笑)
学生に聞いても、研究室にある理化学機器の中で、バイオタージは一番対応が早い!って言ってます。最初は「使い勝手」という面だけで選びましたが、今では本当にバイオタージさんにしてよかったと思っています。

― 本当に光栄に存じます。今後もご期待・ご要望にお応え出来るように頑張ります。本日はお忙しいところありがとうございました。

インタビュー実施:2016年7月
PDFファイルダウンロード(1.2MB)

導入製品

マイクロウェーブ合成装置
Initiator+ Eight

URL: https://www.biotage.co.jp/products_top/microwave-synthesis-work-up/initiator8_top/

オートサンプラー付き、最大8 検体までの連続合成ができるマイクロウェーブ合成装置です。400Wのシングルモード照射で、パワフルかつ精密に温度を制御します。操作はタッチパネルスクリーンを採用し、PCなどの余計なスペースを必要としません。操作性・安定性に優れたマイクロウェーブ合成装置として多くの研究機関で活躍しています。

導入機関

学校法人甲南学園 甲南大学

URL: http://www.konan-first.jp/

1951(昭和26)年、神戸市東灘区岡本に開学。当初は、大学と高等学校・中学校が同一のキャンパス内にありましたが、1963(昭和38)年に高等学校・中学校が芦屋市に移転し、現在に至っています。1995(平成7)年1月17日の阪神・淡路大震災により甚大な被害に遭いましたが、みごとに復興を成し遂げ、現在では学部卒業生も9 万人を超えます。
また、2008(平成20)年4月には知能情報学部、2009(平成21)年4月にはマネジメント創造学部、フロンティアサイエンス学部・研究科を開設し、個性豊かで、特色ある教育研究の総合大学として邁進しています。