株式会社日立製作所 ヘルスケアイノベーションセンタ

株式会社日立製作所 ヘルスケアイノベーションセンタ

新薬のヒト臨床試験
通過率アップを目指して

-薬物動態細胞アッセイの新メソッド開発に
固相抽出プレート「ISOLUTE® ENV+」を活用-

株式会社日立製作所
ヘルスケアイノベーションセンタ

株式会社日立製作所の研究開発グループ テクノロジーイノベーション統括本部 ヘルスケアイノベーションセンタは、医薬品の研究開発などを支援する先端バイオ技術の開発を推進しています。とくに今回、培養細胞を用いた薬物動態分析の新しいメソッドを構築し、その中でバイオタージのサンプル前処理用固相抽出プレート「ISOLUTE ENV+」をご活用いただきました。実際に研究をご担当されているバイオシステム研究部 高橋亮介さんに、研究内容を含めてお話をうかがいました。

株式会社日立製作所 ヘルスケアイノベーションセンタ
株式会社日立製作所 研究開発グループ
テクノロジーイノベーション統括本部
ヘルスケアイノベーションセンタ
バイオシステム研究部 高橋亮介さん

─ まず、ヘルスケアイノベーションセンタについてご紹介ください。

高橋さん :
2015年4月から日立グループの研究開発組織が大きく変更になりました。お客様と共に協創するという考え方のもとに、日立研究所、中央研究所、横浜研究所という3つの研究所を中心にした世界的な研究開発体制を再編し、お客様の課題を解決しようとする社会イノベーション協創統括本部(Center for Social Innovation=CSI)、革新的技術を主体とした研究開発を目指すテクノロジーイノベーション統括本部(Center for Technology Innovation=CTI)、そして将来の社会課題を解決するために長期的な視点で最先端の研究を進める基礎研究センタ(Center for Exploratory Research=CER)の3つを中核とする顧客起点型の研究開発体制を確立しました。

私が所属しているCTIは、エネルギー、エレクトロニクス、機械、材料、システム、情報通信、制御、生産、ヘルスケアという9つのセンタで構成されています。ヘルスケアイノベーションセンタは、魅力的な技術を開発して日立グループのヘルスケア事業に貢献することが使命です。

特に、これから製品になるような新しい技術開発にも積極的に取り組んでいます。グループ内の事業会社から研究費を得て、具体的な開発に取り組むこともあります。実際に製品化されているものとして、磁気共鳴画像装置(MRI)や超音波検査装置、生化学免疫分析装置などがありますが、いま私が取り組んでいるのは将来の製品化を目指した研究テーマです。

◆独自の三次元培養プレート、肝細胞など三次元培養

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均一サイズのスフェロイド

─ 今回、バイオタージのISOLUTE ENV+をご採用いただいたのがそのテーマですね。ご研究に取り組まれた経緯や内容について教えてください。

高橋さん :
そうですね。まず研究の背景からご説明すると、製薬会社様の抱えている最大の課題の1つは、ヒト臨床試験にお金がかかりすぎるということです。10個の候補物質をヒト臨床試験にまわしても、1個しか薬にならないといわれており、結果的にはヒト臨床試験にかかるコストの9割がムダに終わっています。

臨床試験の通過率を上げるためには、新薬開発のより早期の段階において候補物質を高い精度で選抜することが必要です。ヒト臨床試験で通過できない原因に肝毒性と心毒性があります。それを評価する技術をin vitroで開発しようとスタートしたのが始まりでした。

そこで私たちが開発したのがスフェロイド培養プレートです。見かけは普通の24ウェルあるいは96ウェルのマイクロプレートなのですが、ウェルの底面に工夫がしてあります。

96ウェルプレートの場合、各ウェルの底面に極微細なホールが600個ほど(24ウェルプレートではウェル当たりのホール数は約4000個)設けられており、さらにそのホールの一つひとつの底に突起がびっしりと配列しています。

この突起上に細胞を播種すると、細胞が自律的に遊走しながら、立体的な凝集体である三次元スフェロイドが形成されます。仕切り(ホール)構造を設けて、インタラクションできる細胞数を制御することにより、均一な大きさのスフェロイドを形成できます。

従来の細胞培養は二次元で平面的に行われますが、それではヒトの組織の機能や構造を反映していないということで、こうした三次元培養が注目されました。このプレートは、日立が得意とする半導体微細加工技術と、金型のインプリント技術、そして細胞培養技術を融合させて生まれました。個別の技術が社内で調達できる日立ならではの細胞培養器材であると考えています。

三次元細胞培養にはいくつかの方法がありますが、毒性試験や酵素誘導試験などに関し、このプレートが有効であるというフィードバックを評価していただいた方々からもいただいています。

◆培養細胞を用いた薬物動態分析の新メソッドを開発

株式会社日立製作所 ヘルスケアイノベーションセンタ─ ISOLUTE ENV+をご採用いただいた研究について、ご説明を続けてください。

高橋さん :
先ほどは毒性評価についてお話ししましたが、ヒト臨床試験の通過率を上げるためのもう1つのポイントとして、ヒトと動物との薬物動態の違いをあげることができます。動物実験でうまくいっても、ヒトでは代謝が異なったりして臨床試験を通過できないことがあります。

この問題にもスフェロイド培養プレートを応用したいと考えていますが、三次元スフェロイドを使った薬物動態分析技術はまだ開発の途上でして、最近の学会では二次元細胞培養体を用いた薬物動態分析の新しいメソッドを構築したことを発表しました。

投与された薬物は、血中から肝臓に取り込まれ、肝臓で代謝されたあと、1:再度血中に戻って目的の臓器にたどり着くか、2:毛細胆管から胆汁として体外に排出されるかに分かれます。それを細胞培養したin vitroの系で予測したいわけです。

もちろん、ヒトの組織と培養された細胞は違いますが、1:血中に戻って体内循環に回りやすいのか、2:毛細胆管から胆汁として排泄されやすいのか、が判断できれば、薬の開発はかなり効率化できるのではないかと考えています。

従来は、肝臓への取込量や排泄量を別々の試験で評価していましたが、私たちが今回開発している分析技術ではこれらを1回の試験で評価できます。

つまり、肝細胞培養物に取り込まれた投与された薬物のどれだけが1:血中に戻るか、2:毛細胆管に排泄されるか、3:細胞内にとどまるか、その薬剤および代謝物のトータルの動態分布を一括で調べることができます。

特に、血中に戻るというエンドポイントは今までになかったので、製薬会社様からはおもしろいとご評価いただいています。将来、このプレートを使った三次元培養と組み合わせれば、より生体に近い構造体でアッセイができるようになりますので、非常に精度の高い評価がin vitroで可能になると期待しています。

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hitachi006

◆LC/MSの前処理で脱塩操作、定量結果は良好

─ よくわかりました。このご研究において、ISOLUTE ENV+はどのようにご利用いただいているのでしょうか。

高橋さん :
実際のアッセイでは、1:血管側排泄画分、2:毛細胆管側排泄画分、3:細胞内残留画分をそれぞれきちんと回収して、含まれている未変化体、および代謝物の定量は液体クロマトグラフ質量分析計(LC/MS)で行います。その際、サンプル中の塩を取り除くためにISOLUTE ENV+を適用しています。

この前の学会で発表した結果では、傾向モデル薬剤としてCDFとRhodamine 123を使って良好な測定結果が得られています。薬剤によって異なる分配比率の違いもちゃんと検出できていますので、今回構築したプロトコル自体はかなり信頼できると思っています。現在は、いくつかの高脂血症治療薬を用いて、プロトコルの検証を行っています。それで、あとはどうやって三次元にもっていくかが課題になります。

─ では、ISOLUTE ENV+を採用されたきっかけを教えてください。

高橋さん :
別のプロジェクトでISOLUTE PPT+という除タンパクプレートを使用していました。その後、今の開発で脱塩が必要になって、ISOLUTE ENV+をご紹介いただいたというのが経緯です。

ISOLUTE ENV+と他の製品とをそれほど多く比較したわけではないのですが、最終的にLC/MSにかけたときの薬剤の感度から考えて、抽出効率も高いと思います。LC/MSで測定可能なサンプル回収ができているのでまったく問題ないです。

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加圧式サンプル処理マニホールド
PRESSURE+ 96

96ウェルフォーマットがすごく使い勝手がいいのも使い続けている理由ですね。私たちの場合はサンプル処理数が非常に多いので、96ウェルプレートに対応していることが重要です。

また、当初サンプル前処理の経験があまりなかったときも、使用方法なども丁寧に教 えていただけた点も大変助かりました。充填剤の種類が豊富にあるので、困った際に 別のものを提案して頂けるのも嬉しいです。

導入当初は納期まで時間がかかり困っていましたが、相談するとその点も解決して頂けました(笑)。

─ ありがとうございます。加圧式サンプル処理マニホールドPRESSURE+ 96もご利用いただいていますが、いかがでしょうか。

高橋さん :
あれはいいですね。PRESSURE+ 96以外、その種の装置を使ったこと がなかったので比較はできませんが、ストレスなく使えていて満足しています。前処理 に必要な備品や装置まで相談できるのもありがたいです。

─ 逆に問題点や要望はございますか。

株式会社日立製作所 ヘルスケアイノベーションセンタ高橋さん :
そうですね、ISOLUTE ENV+に関しては問題なく使わせて頂いています。あとは・・・枚数を使いますので、もう少し価格 が安くなってくれればありがたいです。(笑)

─ そうですね、より使いやすくなるよう今後の課題とさせていただきます。本日は長時間ありがとうございました。

インタビュー実施:2015年7月
PDFファイルダウンロード(2.1MB)

導入製品

サンプル前処理固相抽出プレート
ISOLUTE ENV+

URL: https://www.biotage.co.jp/products_top/sample-preparation-products/non_polar_spe/#env

バイオタージの ISOLUTE シリーズは世界中の検査機関で採用されている信頼性の高いSPE(固相抽出)製品です。
ISOLUTE ENV+は樹脂ベースの SPE で、シリカベースの C8 や C18 で保持されない極性の高い化合物の抽出に適しています。

 

加圧式サンプル処理マニホールド
PRESSURE+ 96

URL: https://www.biotage.co.jp/products_top/sample-preparation-products/pressure_plus/

圧式サンプル処理マニホールドです。96ウェルそれぞれを個別に加圧する機構を採用しており、サンプルの粘性を問わず均一なフロー、安定した回収率を実現します。
パラレル処理で、スループットの向上に役立ちます。

導入機関

株式会社日立製作所

URL: http://www.hitachi.co.jp/

創業以来、100年以上にわたり、日立は社会や暮らしを支えるインフラづくりに力を注いできました。持続可能な社会の実現に貢献するエネルギーシステムや水処理システム、人々の安全で快適な移動を支える鉄道などの交通システム、ビッグデータの利活用によってイノベーションを創出する情報システム、さらには健康管理・診断・治療技術などを通じて健やかな暮らしに貢献するヘルスケアなど、幅広い分野にわたるその経験と実績は、国内外で高い評価を得ています。とくに、「社会イノベーション事業」を通じて、長年培ってきたインフラ技術と最先端のITを有機的に融合させ、「優れた自主技術・製品の開発を通じて社会に貢献する」という企業理念のもとに、次なるイノベーションに挑み続けています。

株式会社日立製作所 ヘルスケアイノベーションセンタ

設立:1910年2月
資本金:4587億9000万円
連結従業員数:33万3150人
連結売上高:9兆7619億7000万円
(数字は2015年3月現在)